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2015/07/31

<トピックス>韓国労働社会の二極化 第1回 分析の視点                                                   駿河台大学 法学部 朴 昌明 教授

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    パク・チャンミョン 1972年兵庫県姫路市生まれ。関西学院大学商学部卒。関西学院大学大学院商学研究科博士課程前期課程修了。延世大学大学院経済学科博士課程修了。現在、駿河台大学法学部教授。専攻分野は社会政策・労働経済論・労務管理論。主な著作に「韓国の企業社会と労使関係」など。

◆正規職・非正規職などの階層分析も重要◆

 韓国の労働問題が「韓国経済のアキレス腱」と表現されるようになってから久しい。世界経済フォーラムが144カ国を対象に行った国際ランキング(2014-2015国際競争力レポート)によると、韓国は26位。

 項目別に見ると「マクロ経済環境」が7位と高い国家競争力を示すのに対し、「労働市場の効率性」については86位と低い評価を受けている。「労働市場の効率性」のなかでも、「労使関係の協力性は132位」と極めて低い水準に止まっている。韓国が先進国として経済的に成熟していくためには、労働市場や労使関係の改善が重要課題になっていることがわかる。

 他方、韓国の労働問題についての客観的な把握が近年難しくなっている。韓国の労働問題について客観的に理解するためには、分野ごとに多面的な視点から情報収集を図ることが必要であろう。

 韓国の労働市場を分析するにあたり、示唆に富む労働経済理論が2つ存在する。第一に「二重労働市場論」であり、この理論では労働市場が「高賃金・内部昇進が可能・安定雇用などを特徴とする労働市場」と「低賃金・内部昇進が困難・不安定雇用などを特徴とする労働市場」に分かれる現象について説明する。

 第二に「インサイダー・アウトサイダー理論」である。同理論では労働組合が「インサイダー」(労働組合員)の賃上げ・雇用を優先して労使交渉を行うために新規の雇用が創出されず、「アウトサイダー」(失業者)の失業が長期化するとしている。この二つの理論から労働市場の二極化に関する重要なポイントが浮き彫りにされてくる。

 近年の韓国の労働社会を分析するにあたり、二極化(韓国語で「両極化」)は重要なキーワードである。1997年末の通貨危機以降、韓国社会における二極化は大統領選挙の主要争点の一つになるほど重要なイシューになっているが、韓国社会の二極化問題は、労働市場や労使関係に顕著に表れている。

 韓国では、1990年代半ばから政労使交渉に基づく政策形成が模索されてきたが、労使・労政間の厳しい対立を背景に幾度も挫折を経験してきた。近年政労使交渉を難航させてきた懸案事項は、高齢層労働者に対する賃金カーブ制の導入、若者の雇用促進、非正規労働者の待遇改善・正規職転換、通常賃金の定義、労働時間の短縮、不合理な労使慣行の改善など多岐にわたる。

 これらの問題は、「世代間の格差」、「正規職・非正規職間の格差」、「大企業・中小企業間の格差」など様々な格差から生じる二極化に深く関連している。すなわち韓国の労働市場は、二重労働市場論に説明されるような、高賃金で相対的に雇用が安定している労働市場と低賃金で常に雇用不安にさらされる労働市場に分化しているのである。


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