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2016/07/29

<トピックス>韓国労働社会の二極化 第14回 韓国の若者雇用⑤「就業準備者」                                                    駿河台大学 法学部 朴 昌明 教授

  • 駿河台大学 法学部 朴 昌明 教授

    パク・チャンミョン 1972年兵庫県姫路市生まれ。関西学院大学商学部卒。関西学院大学大学院商学研究科博士課程前期課程修了。延世大学大学院経済学科博士課程修了。現在、駿河台大学法学部教授。専攻分野は社会政策・労働経済論・労務管理論。主な著作に「韓国の企業社会と労使関係」など。

  • 韓国労働社会の二極化 第14回 韓国の若者雇用⑤「就業準備者」

◆就職浪人100万人、大企業に応募集中◆

 第10回のコラム(2016年4月8日付)で韓国の若年失業率は今年に入り過去最悪を記録したことを紹介した。深刻化している若者の就職難は他の政府統計にも表れている。

 2011年から2015年の求人倍率は1を大幅に下回り、特に2015年は0・56にまで低下している(表参照)。

 統計庁の「経済活動人口調査:青年層付加調査」によると、2015年5月時点の青年層(15~29歳)の就業試験準備者(63万3000人)のうち、一般職公務員の採用試験準備者が34・9%(22万1000人)であるのに対し、一般企業の就業試験準備者は18・9%(12万人)にすぎない。

 しかし、求職活動を行うことで計上されている公式統計上の失業者(40万6000人)も含めれば、若者の企業求職者は50万人を超えている。

 他方、現役の大学生や大学院生は統計上就業試験準備者には分類されない。日本では就職活動がうまくいかない大学生が就職活動を続行するために留年するケースが見られるが、このような学生は韓国でも数多く見られ、「NG族」(No Graduation)とよばれている。

 また、韓国社会は高学歴化の影響により大学院進学者が増えているが、なかには学部時代に就職活動が上手くいかなかったために、大学院に進学して就職活動の「時間稼ぎ」を行っている若者も数多く存在する。そのため、就職浪人の実質的な数は100万人を超えるとも言われている。

 では、若者の就職活動はどのような状況に置かれているであろうか?

 就業ポータルサイトであるジョブコリアが大学卒業者2247人(2016年卒業者608人、2015年卒業者1639人)を対象に調査を実施したところ、2016年卒業者の72・9%、2015年卒業者の53・0%が今年上半期に大企業新入社員の採用試験に応募した(インターネットイーデイリー、2016年4月26日記事)。

 この調査から若者の大企業志向が強くみられるが、大企業就職への競争は極めて激しい。韓国経営者総協会の「新入社員採用実態調査」(2015年)によると、大企業(従業員300人以上)の就職競争率は35・7倍と高い数値になっている。

 若者に人気がある大企業では、最終合格に辿り着くまでの選考プロセスにおけるハードルが高い。韓国経営者総協会の上掲調査によると、大企業への志願者100人あたり、書類審査合格者が48・3人、筆記試験合格者が14・7人、面接試験合格者(最終合格者)が2・8人となっている。

 このような厳しい競争を勝ち抜くために、多くの若者たちは大学に進学してから書類審査でアピールができるようなTOEICのスコアや資格の取得、さらには筆記試験対策など様々な勉強を行わなければならない。

 このような学習は予備校でテクニックを学ぶことが重要であるため、若者が抱える教育費の負担は大きい。

 若者たちは、大学受験や兵役など厳しい時期を乗り越えても、就職活動というさらなる難関を突破しなければならない。そのため学生たちは大学図書館や予備校などで必死に勉強を続けるものの、その出口は見えてこない。このような過酷な競争によって多くの若者が精神的不安を抱えている。

 ジョブコリアが就業準備生465人を対象に行った調査で回答者の94・5%が就職活動をめぐるストレスで鬱病にかかったと答えている(インターネット中央日報2015年6月17日記事)。

 大企業における競争が激しさを増す半面、中小企業では人手不足の問題が存在している。就業ポータルサイトであるサラムインが中小企業779社を対象に行った調査では、77・7%の企業が求人難を抱えていると回答している(インターネットヘラルド経済2016年7月9日記事)。

 このように韓国社会では若年層雇用のミスマッチが失業問題を深刻化させる一因となっている。


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