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2016/09/02

<トピックス>韓国労働社会の二極化 第15回 韓国の若者雇用⑥「非正規労働者」                                                    駿河台大学 法学部 朴 昌明 教授

  • 駿河台大学 法学部 朴 昌明 教授

    パク・チャンミョン 1972年兵庫県姫路市生まれ。関西学院大学商学部卒。関西学院大学大学院商学研究科博士課程前期課程修了。延世大学大学院経済学科博士課程修了。現在、駿河台大学法学部教授。専攻分野は社会政策・労働経済論・労務管理論。主な著作に「韓国の企業社会と労使関係」など。

  • 韓国労働社会の二極化 第15回 韓国の若者雇用⑥「非正規労働者」

◆20代就業者の3割、105万人が非正規労働者◆

 日本では今年7月から「HERO~期待ゼロの新入社員~」というドラマが放映されているが、このドラマの原作は韓国で社会的反響が高かった「未生」である。

 「未生」の主人公であるチャン・グレは韓国の若者非正規職を象徴するキャラクターとなっているが、チャン・グレの就労形態はアルバイトとインターンであった。韓国では、失業者や受験浪人だけではなく、フリーターやインターンとして劣悪な労働条件で働いている若者の問題も深刻である。

 統計庁「経済活動人口調査(勤労形態別付加調査)」によると、2016年3月時点の20代の非正規労働者数は105万7000人である。統計庁の「経済活動人口調査(本調査)」によると同時点の20代の就業者数は365万3000人なので、20代就業者の3割弱が非正規労働者である。

 韓国における若者非正規職の問題は、日本と状況が似ている。日本の場合、学校を卒業しても就職できなかった若者がフリーターとなり、ハローワークに通っても、正社員の履歴がないために就職できないという問題が就職氷河期以降深刻化した。

 韓国においても、1997年末の通貨危機以降、深刻な就職難が長期化していくなかで、正社員になれずにやむなく非正規職として働く若者が増加している。日本と同様に韓国でも非正社員から正社員への労働移動はとても困難な状態である。OECDの統計(表参照)によると、有期雇用労働者が1年後・3年後に無期雇用労働者に移動した割合は、韓国・日本が英国・ドイツに比べて顕著に低い。

 韓国の若者非正規労働者をめぐる社会問題としては低賃金労働が挙げられる。雇用労働部の「雇用形態別勤労実態調査」によると、29歳以下の非正規労働者の月給は105万9000㌆であり同年齢層の正規労働者(207万㌆)の半分程度にすぎない。また、最低賃金未満の報酬で就労している非正規職の若者も多い。現代経済研究院が今年4月に発表した報告書「青年熱情ペイの特徴と示唆点」によると、2015年時点の若者(15~29歳)の非正規労働者のうち最低賃金未満で働く者は42万9000人であり、若者非正規労働者全体の32・8%に相当する。

 現代経済研究院の上掲報告書のタイトルにある「熱情ペイ」は若者の低賃金問題を背景に近年作られた造語である。この用語には、就職難が深刻な韓国社会において、「安定した職場に就職するためには低賃金・無給であっても職歴のスペックを作らなければならない」と考えるほど精神的に追い込まれた若者たちの仕事に対する「熱情」を企業側が悪用して賃金を搾取する問題に対する批判が込められている。

 「熱情ペイ」の典型的な例がインターンである。まず、インターンに支給される報酬は正規職に比べてはるかに少ない。就業ポータルサイトであるジョブコリアの報道資料(2016年5月30日付)によると、ジョブコリアが運営するアルバイトポータルサイトであるアルバモンが最近1年以内のインターン経験者632人を対象に調査を行ったところ、インターンに対する月給の平均額は122万㌆であった。

 さらに深刻な問題は、インターンを最低賃金未満の報酬で働かせ、残業・休日出勤を命じておきながら手当を正しく支給しない「ブラック企業」が数多く存在することである。


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