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2016/03/04

<トピックス>韓国労働社会の二極化 第9回 非正規職保護法③「派遣法改定をめぐる論議」                                                    駿河台大学 法学部 朴 昌明 教授

  • 駿河台大学 法学部 朴 昌明 教授

    パク・チャンミョン 1972年兵庫県姫路市生まれ。関西学院大学商学部卒。関西学院大学大学院商学研究科博士課程前期課程修了。延世大学大学院経済学科博士課程修了。現在、駿河台大学法学部教授。専攻分野は社会政策・労働経済論・労務管理論。主な著作に「韓国の企業社会と労使関係」など。

◆改定案では難しい偽装請負問題の解消◆

 昨年から政府が労働改革を強く要求するなか、労働関係法改定の論議は難航している。今年に入って、非正規職保護法の改定をめぐる論議は派遣労働が焦点になっている。

 本紙(2016年1月15日付1面記事)でも報道されているとおり、「労働界で反対している期間制法と派遣法のうち、期間制法は中長期的に検討する代わりに、派遣法は受け入れてほしい」と政府は派遣法改定の要求を根強く行っている。

 これまでの政府・与党による派遣法改定案の主要内容は以下のとおりである。

 第一に、55歳以上の労働者の派遣解禁(製造業の直接生産工程及び絶対禁止業務を除く)である。

 第二に、医師など派遣絶対禁止業務を除く高所得専門職の派遣解禁である。

 第三に、製造業のうち「プリ(根)産業」と呼ばれる6工程(金型、鋳造、溶接、塑性加工、熱処理、表面処理)に対する派遣労働の解禁である。

 第四に、違法派遣を防ぐための派遣・請負業務を区分する基準の明確化である。

 第一に、55歳以上の労働者派遣を解禁する趣旨は中高齢者の雇用促進にある。中小企業中央会が今年2月1日から3日にかけて実施した「労働改革関連派遣法改定案中小企業認識調査」によると、派遣法改定案について知っている企業の割合は半数弱(48・1%)にすぎないが、改定案を知っている企業のうち派遣拡大による中壮年層の雇用機会の拡大に同意すると回答した企業の割合が67・6%(「とても同意する」19・8%、「同意する」47・8%)である。 しかし筆者は、55歳以上の労働者の派遣解禁による雇用創出効果は限定的であろうと考えている。なぜなら、これらの労働者については請負による間接雇用が可能であり、派遣に切り替えるメリットが存在しないためである。

 第二に、高所得専門職の派遣解禁についてであるが、韓国労総の「〝非正規職総合対策〟の内容と問題点」(15年1月)によると、派遣解禁の対象となる高所得専門職に該当するのは弁護士、会計士、教師、看護師、金融保険業、販売・運送管理者など400人を超える管理職・専門職である。

 日本の場合、韓国よりも広範囲な職業で労働者派遣が容認されているものの、弁護士など「士業」の一部や看護師など医療関連業務については派遣業務を禁止している。韓国政府が高所得専門職の派遣解禁を導入する前に、高所得専門職のうち「士業」や医療関連業務についてはより慎重な検討が必要である。
 
 また、高所得専門職の雇用促進効果を期待する声もあるが、これらの労働者が正規職から派遣に代替され、雇用の質が低下することも懸念されるので、実態調査に基づくシミュレーションを踏まえた上での政策判断が必要になるであろう。

 第三に、日本やヨーロッパなどの先進国では製造業の派遣労働を許容しているのに対し、韓国では禁止されているため、政府や経営側から製造業における派遣労働の解禁が強く要求されている。「プリ産業」に対する派遣労働の解禁の趣旨は、中小製造企業における労働力不足の解消である。産業通商支援部の「プリ産業統計調査」(13年度)によると、プリ産業に属する事業体の93・6%が従業員50人未満の小規模な事業体である。