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2016/04/15

<トピックス>切手に見るソウルと韓国 第66回 民話「フンブとノルブ」                                                         郵便学者 内藤 陽介 氏

  • 郵便学者 内藤 陽介 氏

    ないとう・ようすけ 1967年東京都生まれ。東京大学文学部卒業。日本文芸家協会会員、フジインターナショナルミント株式会社・顧問。切手等の郵便資料から国家や地域のあり方を読み解く「郵便学」を研究。

  • 切手に見るソウルと韓国 第66回 民話「フンブとノルブ」

    民話「フンブとノルブ」からトッケビ登場シーンの切手

◆トッケビ(鬼)が1本足から2本足へ◆

 本紙の発行日にあたる4月15日から10月1日まで、ソウル市内では、毎週金曜・土曜の午後18時から23時頃まで、「ソウルパム・トッケビナイト・マーケット」が開催される。

 会場は汝矣島漢江公園から始まり、5月にはDDP(東大門デザインプラザ)と清渓谷広場に、そして7月には木洞総合運動場にまで段階的に拡大され、最終的に、4会場別に差別化されたコンセプトで、ナイト・マーケットが開催される予定だという。

 ところで、マーケットの名前に付けられている〝トッケビ〟は民話などに登場する鬼で、主として夜に活動するから、ナイト・マーケットのイメージに合致するということなのだろう。

 韓国の切手でトッケビを描いたものとしては、1970年5月5日、民話シリーズ第5集として発行された「フンブとノルブ」の切手が挙げられる。

 「フンブとノルブ」は、朝鮮王朝時代のハングル小説「興夫伝」をもとにした物語だ。

 そのあらすじは、主人公のフンブは貧乏ではあるものの善良で、足を治してやった燕が恩返しとしてもたらした瓢箪の種を植えたところ、その実から財宝が出てきた。

 これに対して、意地悪で欲深の兄・ノルブは、弟を真似ようとして故意に燕の足を折ったものの、燕のもたらした瓢箪の種から生じた実からはトッケビが出てきて身の破滅を招くというもので(切手に描かれているのはこの場面)、日本でいえば、正直爺さんと意地悪爺さんを対比した〝花さかじじい〟や〝こぶとりじいさん〟などに通じるものがあるかもしれない。

 物語に登場するトッケビは、朝鮮の伝統文化に登場する妖怪の一種で、漢字では〝独脚鬼〟と書くことからもわかるように、本来は、1本脚の鬼だ。

 民話に登場する場合には、いたずら好きで、好物の豚肉などをめぐって、人間に知恵比べやシルム(朝鮮の伝統的な相撲)での勝負を挑むものの、最終的に人間には勝てず肉も得られないというオチの内容が多い。

 また、精力絶倫で、トッケビと一緒になった女性には福がもたらされるものの、彼女は日に日にやつれていくとも言われている。

 ちなみに、現在の韓国では、トッケビを1本足で描くことは少なく、2本足の化物として描かれることが多いようだ。


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