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2017/07/21

<トピックス>切手に見るソウルと韓国 第80回 朴正熙生誕100年                                                         郵便学者 内藤 陽介 氏

  • 郵便学者 内藤 陽介 氏

    ないとう・ようすけ 1967年東京都生まれ。東京大学文学部卒業。日本文芸家協会会員、フジインターナショナルミント株式会社・顧問。切手等の郵便資料から国家や地域のあり方を読み解く「郵便学」を研究。

  • 切手に見るソウルと韓国 第80回 朴正熙生誕100年

    朴正熙第8代大統領就任記念切手(1972年発行)

◆経済成長実現も、保革で異なる評価◆

 今年9月15日に発行の予定だった〝朴正熙元大統領生誕100周年〟の記念切手(以下、朴正熙100年)の発行が中止された。韓国の記念切手発行スケジュールは、前年のうちに決定されるのが慣例で、今回の〝朴正熙100年〟に関しても、その他の切手とともに、昨年5月に発行予定が発表されていた。

 朴正熙に対する評価は立場によってさまざまであろうが、〝漢江の奇跡〟と呼ばれる経済成長を実現した功績は誰にも否定できまい。現在の韓国が〝先進国〟の一角を占めている原点は、間違いなく、〝漢江の奇跡〟にあるわけだから、朴正熙100年の記念切手を発行しようというのも、至極自然な発想である。

 ところが、記念切手発行計画が発表された後の昨年10月、朴正熙の長女である朴槿惠大統領(当時)の個人的な友人・崔順実による国政介入問題(崔順実ゲート事件)が発覚したことで、政権の支持率が急落。12月9日には国会が大統領の弾劾訴追案を可決し、今年3月10日にはこれを妥当とする憲法裁判所の判断が下され、朴槿惠は大統領を罷免されて失職。さらに、同月31日、収賄容疑などで逮捕された。

 その後、5月9日の大統領選挙で、急進左派の文在寅が当選すると、9月に発行予定だった〝朴正熙100年〟の雲行きがにわかに怪しくなってくる。

 朴正熙を〝暗黒の軍事独裁政権の首魁〟と位置づけている左派リベラル陣営は、もともと、朴正熙100年の記念切手には否定的だったが、記念切手の発行計画を審議した〝切手発行審議委員会〟の委員に、朴槿惠前大統領の側近、金淇春・元大統領秘書室長(現在、職権乱用罪などで公判中)の元秘書が含まれていたことから、記念切手の発行中止を求める声が高まり、その圧力に屈するかたちで、7月12日、郵政事業本部は「再審議した結果、朴正熙100年の切手は発行しないことに決まった」と発表した。

 さらに、切手発行の中止が報じられた翌日の7月13日、ソウル・昌徳宮の近くに〝盧武鉉センター〟を建設する計画が発表されたこともあり、韓国内の保守派の強い反発を招いている。

 たとえば、保守系・正しい政党の朱豪英院内代表が、「朴正熙切手発行計画の取り消しは(政権の)〝見えない手〟が作用したとの疑惑を持たれるのに十分だ」と発言。

 一方、左派リベラル側では、


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