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2017/07/07

<トピックス>韓国労働社会の二極化 第25回 文政権の労働政策の展望②「雇用創出①」                                                   駿河台大学 法学部 朴 昌明 教授

  • 駿河台大学 法学部 朴 昌明 教授

    パク・チャンミョン 1972年兵庫県姫路市生まれ。関西学院大学商学部卒。関西学院大学大学院商学研究科博士課程前期課程修了。延世大学大学院経済学科博士課程修了。現在、駿河台大学法学部教授。専攻分野は社会政策・労働経済論・労務管理論。主な著作に「韓国の企業社会と労使関係」など。

◆経営者団体、労働組合との合意形成を◆

 大統領選挙において雇用創出は重要なイシューとなった。文在寅氏のキャッチフレーズは「雇用大統領」であり、選挙公約として①雇用委員会の設置、②公共部門81万人の雇用創出、③民間部門50万人の雇用創出、④性別・年齢別マッチング型の雇用対策を掲げた。特に①については既に公約が実行され、雇用創出に向けて本格的な取り組みが始まっている。

 今回のコラムでは、前述の①~③を中心に文在寅政権の雇用政策の展望について検討していく(前述の④については次回のコラムで紹介する)。

 ①雇用委員会の設置

 文大統領は就任後、大統領業務指示第1号で大統領直属の「雇用委員会」を設置した。「雇用委員会の設置及び運営に関する規定」(大統領令第28050号)によると、雇用委員会は委員長1名、副委員長1名を含む30名以内の委員で構成され、委員は政府長官・大統領秘書室の首席秘書官・国策研究院長・労働者代表・使用者代表・学者・実務家で構成される。過去の政権における労使政委員会との大きな相違点は、文大統領自らが委員長に就任したことである。

 大統領執務室には雇用関連統計が表示されるモニターが設置されており、大統領が雇用委員会の委員長を兼任することで雇用政策を直接推進するという強い意志が示されている。

 雇用委員会が成功するためには、経営者団体・労働組合の参与が不可欠である。過去の政権においては政府・組合間の対立が深刻になり、社会的合意形成を困難にする一因となった。

 また、文在寅政権出帆後は雇用問題をめぐり政府と経営者団体の間で対立が見られる。文政権の重大な政策課題は社会統合である。経営者団体・労働組合はもちろん、雇用問題が特に深刻である若者・女性・高齢者の代表者も含めた社会的協議体制と合意システムを雇用委員会で実現できれば、「ウィン・ウィン型」の雇用創出の展望が開けていくであろう。

 ②公共部門の雇用創出

 大統領選挙の公約では、消防官・警察官・社会福祉専門公務員・教師など公務員の雇用(17万4000人)、社会福祉・保育・養老・障碍者福祉・公共医療など公共機関の雇用(34万人)、公共部門間接雇用労働者の直接雇用転換(30万人)によって公共部門における約81万人の雇用創出が掲げられている(共に民主党『第19代大統領選挙公約集』)。

 OECDの「一目でみる政府 2015」によると、雇用全体のうち公共部門が占める割合(2013年)はOECD平均が21・3%であるのに対し韓国は7・6%に過ぎず、OECD加盟国の中で最低水準である。この数値等を根拠に文氏は大統領選挙において公共部門による雇用創出を重要課題として掲げた。

 経済成長を通じた民間主導の雇用創出に頼るだけでは効果が期待できないことは、近年の雇用統計を見ても明白である。社会保障分野を中心に公共部門の新規雇用を積極的に行うことは、「社会福祉の発展」と「雇用のミスマッチ改善」を同時に実現できる可能性を秘めている。

 しかし、公共部門で80万人規模の雇用創出を実現させるには莫大な財源が必要となる。制約された財源の中で無理に数値目標達成を試みると、非正規職のような低賃金不安定雇用の量産という副作用をもたらすことが懸念される。政府は「公共部門の使用者」であると同時に民間部門に対する「労使関係のパターン・セッター」のような影響力も持っている。

 したがって、最優先課題は「雇用の質の改善」である。公共部門においては間接雇用非正規職の劣悪な労働条件が社会問題となっているので、


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