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2018/03/09

<トピックス>韓国労働社会の二極化 第33回 長時間労働⑤「新世界グループの週35時間労働制」                                                   駿河台大学 法学部 朴 昌明 教授

  • 駿河台大学 法学部 朴 昌明 教授

    パク・チャンミョン 1972年兵庫県姫路市生まれ。関西学院大学商学部卒。関西学院大学大学院商学研究科博士課程前期課程修了。延世大学大学院経済学科博士課程修了。現在、駿河台大学法学部教授。専攻分野は社会政策・労働経済論・労務管理論。主な著作に「韓国の企業社会と労使関係」など。

◆労働時間短縮は最低賃金引き上げとセットで◆

 最近、韓国の新聞ではワークライフバランスの略語である「ウォーラベル」という用語がよく登場するようになった。

 ワークライフバランスに対する社会的関心が高まるなか、流通大手の新世界グループが役員・社員の週労働時間を35時間に短縮することを昨年12月8日に発表した。

 法定労働時間(週40時間)を5時間も下回る週35時間労働制の導入は韓国の大企業では珍しく、流通業界のみならず韓国社会で非常に注目を浴びている。

 本稿では、新世界グループにおける週35時間労働制の導入について紹介する。

 新世界グループの週35時間労働制は今年1月1日から導入され、1日の労働時間を8時間から7時間へと1時間短縮されている。労働時間の短縮に伴い新世界百貨店やイーマートの一部では営業時間の変更が実施されている。

 この制度の導入に伴い新世界グループでは業務上でも労働時間短縮に向けた様々な制度が導入された。イーマートの場合は以下のとおりである(インターネット京郷新聞2018年2月5日記事)。

 第一に、物流センターにおける商品カテゴリーの細分化や発注部門の自動化によって作業時間を短縮している。

 第二に、午前10時から午前11時半までと午後2時から4時までの2回にわたり集中勤務時間帯があり、その時間帯は喫煙室が閉鎖され、会議や業務報告も最小化される。

 第三に、午前9時に出勤した事務職員は午後5時に定時退社し、午後5時半にはコンピューターがシャットダウンされ、残業が多い部署の役員はペナルティーが課される。

 労働時間短縮のための様々な取り組みによって、イーマートの業務改善は以下のように好調に進んでいる(インターネットソウル経済新聞2018年2月4日記事)。第一に、本社の残業率が労働時間短縮前は32%であったのに対し、短縮後は0・3%まで激減した。

 第二に、チーム別会議室利用回数は週3回から週1・5回に半減し、会議室利用時間も2時間から1時間に半減した。

 第三に、店舗商品の入庫所要時間が5時間から2.5時間に半減した。

 新世界グループの週35時間労働制の導入はイーマートにおける労使間の合意を伴ったものであった。しかし、この合意には労働組合で賛否両論に分かれている。

 週35時間労働制の導入に合意したのは韓国労総系の組合(全国イーマート労働組合)であった。イーマートと全国イーマート労働組合は賃金下落なき週35時間労働制の導入を骨子とする賃金協約合意書を2017年12月7日に締結した(韓国労働組合総連盟、2017年12月8日報道資料)。

 この合意に対し、民主労総系の組合(マート産業労組イーマート支部)は否定的な見解を示している。

 マート産業労組イーマート支部長は、週労働時間が40時間から35時間に短縮されることで労働者に支給される賃金総額も削減されることを指摘している(インターネットハンギョレ、2017年12月8日記事)。


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