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2018/05/11

<トピックス>韓国労働社会の二極化 第35回 長時間労働⑦「勤労基準法改定(後編)」                                                   駿河台大学 法学部 朴 昌明 教授

  • 駿河台大学 法学部 朴 昌明 教授

    パク・チャンミョン 1972年兵庫県姫路市生まれ。関西学院大学商学部卒。関西学院大学大学院商学研究科博士課程前期課程修了。延世大学大学院経済学科博士課程修了。現在、駿河台大学法学部教授。専攻分野は社会政策・労働経済論・労務管理論。主な著作に「韓国の企業社会と労使関係」など。

◆有休の消化率改善の法的措置を◆

 前回と今回の二回にわたり、今年2月に国会を通過した労働時間短縮を骨子とする勤労基準法改定案について紹介している。

 今回は、①時間外労働と休日労働の重複による割増賃金率と②公休日の有給休務制度について検討する。この二点は、労働時間のみならず賃金にも関わるイシューでもある。

①時間外労働と休日労働の重複による割増賃金率

 勤労基準法では、時間外労働・夜間労働・休日労働による割増賃金率はいずれも50%以上になっている。もし時間外労働または休日労働が夜間労働(午後10時~午前6時)の時間帯と重なっている場合は、2つの割増賃金率が合算されて100%以上の割増率となる。

 一方、時間外労働と休日労働は、雇用労働部の解釈に基づき、月8時間以内の休日労働については50%以上、月8時間を超える休日労働は100%以上の割増率とされてきた。

 今回の勤労基準法改定作業では時間外労働と休日労働の重複による割増賃金率が重要な争点となった。労働者側は雇用労働部による行政解釈が法律違反であるとし、賃金率の重複割増を全面的に認めるよう要求してきた。

 他方、韓国の割増賃金率は国際的に高い水準にあることから、延長労働と休日労働までも割増賃金率の重複合算が全面的に認められると、人件費の負担が大幅に増えることになる。

 そのため、経営者側は割増賃金の重複加算に否定的であるのみならず、割増賃金率の引き下げも求めてきた。結局、今回の改定では雇用労働部の行政解釈に基づく割増賃金率が勤労基準法に明記されることになった。事実上の現状維持である。

 しかし、この改定案については法的問題点が存在するという批判を受けている。なぜなら、昨年裁判所が雇用労働部による行政解釈を違法と判断したためである。

 2008年9月に成南市の清掃労働者が休日労働と延長労働の割増率を合算して休日労働手当を支給することを求めて訴訟を起こした。1審(水原地裁)、2審(ソウル高裁)ともに休日労働を延長労働と認定し、割増率の重複加算による休日労働手当の支給を求める判決を下した。

 したがって、今回の改定においては裁判所によって違法と判断された行政解釈をあえて勤労基準法に導入したことになる。この裁判は最高裁に上告されて係争中(2018年4月25日時点)であり、最高裁判決の結果が注目される。

 しかし仮に最高裁が1審・2審と同じく雇用労働部の行政解釈が違法という判決を下したとしても、裁判所の判決の効力が適用されるのは法改定前に発生した事例についてのみであり、法改定後に発生した事例に対しては改定勤労基準法の内容が適用されるため裁判所の判決の効力は発生しない。

②公休日の有給休務制度

 現行では祝日など大統領令で定める公休日の有給は公務員・公共企業職員のみに適用されているが、今回の改定では民間企業にも適用範囲を拡大し、事業所規模別に段階的に施行する。

 従業員300人以上の事業所は


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