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2018/08/03

<トピックス>韓国労働社会の二極化 第38回 賃金問題③「最低賃金(後編)」                                                   駿河台大学 法学部 朴 昌明 教授

  • 駿河台大学 法学部 朴 昌明 教授

    パク・チャンミョン 1972年兵庫県姫路市生まれ。関西学院大学商学部卒。関西学院大学大学院商学研究科博士課程前期課程修了。延世大学大学院経済学科博士課程修了。現在、駿河台大学法学部教授。専攻分野は社会政策・労働経済論・労務管理論。主な著作に「韓国の企業社会と労使関係」など。

◆引上率下方調整で低賃金労働者の雇用不安解決せず◆

 文在寅政権による最低賃金政策は大幅賃上げを骨子とするものであったが、この3カ月間に一定の軌道修正が行われている。文在寅政権における最低賃金をめぐる政策路線の修正は、最低賃金法の改定から始まった。まず今年5月28日に最低賃金法の改定案が国会の本会議を通過し、最低賃金の計算方法が変更されることになった。次に、最低賃金委員会は7月14日に2019年の最低賃金を8350㌆(10・9%の引上げ率)にすることを発表した。本稿では、上記の二点を中心に最低賃金政策の変化について紹介し、これが労働市場にもたらす効果と問題点について検討する。

(1)最低賃金法の改定

 今回の最低賃金法の改定によって、賞与や福利厚生(食費・宿泊費・交通費など)についても毎月1回以上定期的に支給されている賃金については最低賃金への算入範囲に含まれることになった。この制度は来年1月から実施され、年間最低賃金の25%を超える賞与と年間最低賃金の7%を超える生活扶助・福利厚生目的の賃金が最低賃金への算入対象となる。そして5年間で段階的に算入幅が拡大され、2024年には賞与・福利厚生費の全体が最低賃金に算入される。最低賃金の計算方法を変更した趣旨は、上記の賃金を最低賃金に算入範囲とすることで最低賃金の引上げ率を事実上鈍化させることである。

 賞与や福利厚生費など名称が異なっていても、毎月定期的に支給される賃金であれば、最低賃金への算入範囲に含まれることについては原則的に否定されるべきではない。しかし改定案の詳細を見ると、以下の二点が懸念される。

 第一に、最低賃金法改定案では、年に数回しか支給していない賞与を月単位の定期賞与に変更する目的で就業変更を行う場合は、就業規則の不利益変更時における過半数労働組合や労働者代表の同意義務(勤労基準法第94条第1項)を免除し、意見を聴取する義務のみを課す特例措置を設けている(雇用労働部報道資料、2018年5月29日)。もし、労働者側の同意なく就業規則の不利益変更が行われる場合は、新たな労使紛争の火種となりうる。

 第二に、生活扶助や福利厚生を目的とする諸手当まで最低賃金の計算対象としている点である。日本の場合、毎月支給される諸手当のうち、精皆勤手当・通勤手当・家族手当については最低賃金の算入対象外となる(厚生労働省サイト内の「最低賃金の対象となる賃金」を参照)。しかし韓国の場合、今回の最低賃金法の改定によって通勤・食事・家庭の支援に関わる広範な福利厚生費が最低賃金への算入対象となる。最低賃金の計算方法が段階的に変更されるとはいえ、事実上の賃下げにつながりうる変更であることには違いがない。したがって、生計維持を目的に働く低賃金労働者の劣悪な生活水準がさらに悪化しうる。

(2)最低賃金引上率の下方修正

 文在寅政権の発足後に設けられた2018年度の最低賃金引上率は16・4%と極めて高い数値が設けられたが、人件費上昇に直面した中小企業経営者や零細自営業者から強い反発を招いてきた。2019年度の最低賃金引上率をめぐり最低賃金委員会では労使間で深刻な対立が続いてきたが、


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