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2001/08/24

<鳳仙花>◆作家・麗羅さんの思い出◆

 在日一世の作家、麗羅さん(77、本名・鄭ジュンムン、元在日韓国文化芸術協会会長)が今月4日に亡くなった。文壇に出たのは「ルバング島の幽霊」というミステリー作品で73年にサンデー毎日新人賞を受賞したのがきっかけで、なんと49歳という遅咲きのデビューだった。
純文学が主体の在日の作家の中ではちょっと異色の存在で、推理小説を手がけ、大衆文学路線を歩んだ珍しい人だった。

 90年の夏、韓民族の聖地、白頭山を訪ねるツアーに参加し、そこで麗羅さんと知り合った。高句麗と新羅の一文字ずつを取ってペンネームとした麗羅という作家をガチガチの民族主義者と思っていたのだが、Gパンにティーシャツ姿で、冗談を飛ばし、人懐っこく、すっかり打ち解け、仲良くなってしまった。

 北京から朝鮮族自治州の延辺に飛び、そこからクルマで白頭山に向かったが、旅の途中、麗羅さんからさまざまな話をうかがった。

 「わが民族は白衣の民です。白を好み、葬式にも白を着る。白頭山を筆頭にわが国には太白山、小白山、白雲山など、その名に白のつく山がたくさんあります」

 白頭山を仰ぎ、そう語る彼の姿がいまも目に映る。79年に発表された麗羅さんの自伝的歴史小説「山河哀号」を読むと、植民地支配下で祖国と民族への愛をひた隠しにし、日本に迎合して生きなければならなかった韓国人青年の苦悩が痛いように胸に迫る。白頭山の頂上から麗羅さんと一緒に眺めた天池のすばらしさは、一生忘れられない。

 敗戦後の満州から引き揚げてくる日本人女性の消息を韓国人青年が追う「桜子は帰ってきたか」という麗羅さんの作品がある。そこに描かれているのは、韓国人と日本人の二つの民族の和解である。両国の友好を願う麗羅さんの笑顔を心の宝物にしたいと思う。合掌(A)