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2005/02/04

<鳳仙花>◆届かなかった在日保健師の願い◆

 東京都の保健師・鄭香均さん(54)が、外国籍を理由に管理職昇任試験を受けられないのは差別として、11年間闘ってきた裁判の最高裁判決は敗訴で終わった。外国籍を理由に「(受験拒否は)法の下の平等に反しない」と断じたのである。

 世界はいま、定住外国人の権利拡大に動いている。ニュージーランドやスウェーデンなどは地方公務員だけでなく国家公務員も認めているし、英国では旧植民地出身者への国家公務員採用を許可している。ましてや鄭さんは父親が在日1世、母親が日本人の在日2世。日本に生活基盤を持つ特別永住者だ。

 裁判でも、在日韓国人の歴史的経緯について鄭さん本人や弁護団から再三陳述がなされたが、最高裁がその訴えを聞き入れることはなかった。

 判決後の記者会見で鄭さんの弁護団が、「日本はアジアの人権先進国になるチャンスを逸した」と語ったが、まさにその通りで残念なことだ。

 鄭さんは94年に管理職選考試験の受験を拒否されたとき、裁判を起こすかどうか悩みに悩みぬいた。だが、「在日コリアンで公務員になった人間には、それだけの責任があるのではないのか」と自問し、提訴するにいたった。

 地裁で敗訴したが97年に高裁で勝訴。しかし最終審では意図的ともいえる引き延ばしが続く中、「裁判をやめよう」と考えたことも何度かあったという。そう心がぶれる度に、「日本人を憎んでいるからでも、国籍国への忠誠心からでもない。多民族共生の日本社会を作る一員として生きたい」との自らの陳述を思い出して、心を奮い立たせてきた。思いは届かなかったが、救いは15人の裁判官のうち2人が、「受験拒否こそ違憲」と論じたことだ。

 「今回の少数意見が多数意見になる最高裁にしなくては」「自治体の国籍条項撤廃の動きに歯止めがかからないようにしよう」との声が、弁護団、支援者から起きている。鄭さんの闘いをどう引き継ぐか、今後の在日社会の課題だ。(L)