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2007/02/23

<鳳仙花>◆「トウショウヘイの中国」に学ぶ北朝鮮◆

 「世界の工場」と呼ばれる中国。その経済発展の転機をつくった、かつての最高指導者、トウショウヘイ氏が死去して10周年を迎えた。市場経済を大胆に導入した小さな巨人が「13億の中国」にもたらしたものは何だったのだろうか。

 「改革・開放の総設計者」。これがトウ氏についた代名詞である。1978年の改革・開放政策から30年近く、年平均9%以上の経済成長を遂げ、GDP(国民総生産)は当時の3645億㌦から21兆㌦へと57倍に増え、外貨保有高は1兆6000億㌦を超え世界1位。輸出は日本を抜き世界3位。2030年には米国を抜いて世界最大の経済大国になるだろうとの米有力研究機関の予測すら出ている。

 そのひずみとして貧富の差が猛烈に拡大。上海の所得格差は18倍に広がり、階層衝突を心配する声も多い。中国経済の光と影であるが、市場経済を導入しなかったら、「眠れる大国」のままだったかも知れない。

 トウ氏の理論の核心は、「白猫であれ黒猫であれ、鼠を捕るのがよい猫である」との「黒猫白猫論」で象徴される先富論。「一部地域と企業、個人がまず豊かになる」。できる人、できる所から始めようである。平等を至上命題とする社会主義国家の中国で、あまりにも大胆な考え方だ。その柔軟な思考は近隣の諸国の動向をつぶさにみていたことと無縁でなかった。

 彼は、市場経済を導入するに当たって、「漢江の奇跡」と称賛されていた韓国経済の発展の秘訣を探るべく、あらゆる資料を集めさせたという。そこには経済建設のためには強権発動もためらわなかった朴正熙大統領の考え方に関するものも多く含まれていた。

 氏の決断が今日の中国の礎を築いたのは間違いない。中国共産党内部での社会主義教条派との暗闘の中で市場経済を導入したのである。北朝鮮にとっては貴重な教材となる。

 金正日総書記は数度にわたり中国の上海、シンセンなどの経済視察を行い、中国の発展ぶりを実感したはずである。トウ氏の決断と勇気は大いに参考になるだろう。(S)