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2008/03/07

<鳳仙花>◆10周年迎えたトラヂ会◆

 写真家の菊池和子さんは、在日高齢者交流クラブ「トラヂの会」(神奈川県川崎市桜本)に集う1世たちを長年撮影し、聞き取りしてきた。しわだらけの顔の奥に、民族差別の中で生き抜いてきた苦労がしのばれ、また、それを乗り越えてきた明るさに尊敬の念を感じるという。

 月に2回、市内のお風呂屋さんが無料開放しており、1世たちは風呂に入った後、お弁当を食べ、カラオケを楽しむ。何度かお供をしたことがあるが、その賑やかさにこちらまで楽しくなったものだ。

 その「トラヂの会」が今年10周年を迎え、記念式典が開かれた。式典では芝居「わたしたちの話を聞いておくれ」が、1世たち自身によって上演された。「語ることはつらいが、語らないと気が晴れない」と日々練習に励んできたそうで、会場は泣き笑いに包まれた。当初40人ほどだった参加者が現在は約80人に増えた。一方で年齢は80代が中心。体が不自由になり、中には認知症を発症した人もいて、スタッフらは人生の最後をどう迎えてもらおうか、悩むことが増えたという。

 同会は、88年の川崎市ふれあい館開館と同時に始まった識字学級が前身だ。そこで1世の苦労話を聞いたスタッフが、「地域に在日1世の居場所がない」ことを痛感し、在日高齢者が気兼ねなく集まれる場を作ろうと、98年に設立した。

 会はすっかり地域に根付いているが、それは高齢者の自主性を尊重する運営姿勢にヒントがある。それを学ぼうと、地方自治体や韓国からの見学者も増えている。このトラヂ会のような活動が、各地で広がることを希望したい。

 同時に、在日1世はほとんどが80歳を超え、在日人口の1%を切ったと推定される。その苦難の人生は、彼らの死とともに忘れ去られてしまう可能性がある。菊池さんのような歴史を残すための地道な取り組みが、各地でなされるべきだろう。(L)