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2007/11/17

<韓国経済>韓国進出日本企業インタビュー・競争から共創へ 第10回                                           ~伊藤忠商事 海外市場部アジア・大洋州室室長代行 鈴木 敦氏~

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    すずき・あつし 1957年、新潟県生まれ。東京都立大(現・首都大学東京)法学部卒。1979年、伊藤忠商事入社。89~93年、シンガポール支店駐在。2001~05年、香港伊藤忠に勤務(04~05年、シンセン伊藤忠総経理兼務)。2005年から海外市場部アジア・大洋州室室長代行

 ――伊藤忠と韓国との関係について。

 韓国とは戦前から深いつながりがあると聞いている。当社の故・瀬島龍三元会長がサムスン物産発足時に、商社の組織・体制等を教示した経緯があり、サムスン物産とは現在も双方の社長が定期的に会い、情報交換を通じて親密な関係にある。

 本格的に取引を開始したのは66年にソウルに連絡事務所を開設して以降で、翌67年には事務所を支店に昇格させた。その後、94年に現地法人の韓国伊藤忠を設立、99年には支店を閉鎖して韓国伊藤忠に業務を一本化し、輸出入・三国取引や投資を行っている。

 初期のころは、「繊維の伊藤忠」といわれたほど繊維に強く、主に繊維原料・繊維資材等の取り扱いで商売をさせて頂いた。67年に開設した釜山の事務所では製靴産業との取引が多かったようだ。しかしながら、中国などの台頭による韓国内での産業構造の変化により、当社の取扱品目も大きく変化しながら現在に至っている。

 このほか、ポスコとの取引も歴史が長く、81年に浦項、87年に光陽に事務所を開設し、製鉄設備を数多く納入させて頂いた。最近もポスコのベトナム工場向けに設備を納入させて頂いている。

 ――これまでの韓国で印象深い取引は。

 歴史的に大きな取引となると、起亜産業(現在の起亜自動車)とのビジネスが挙げられる。起亜が二輪車を製造していた時より部品等を供給していた関係で、87年に乗用車に進出した以降もマツダ・フォードとの技術提携を仲介、少額ながら出資もさせて頂き、長年に渡りマツダ製のコンポーネントを納入した。起亜の海外展開では、豪州・欧州に伊藤忠も出資し輸入代理店を設立、中近東・アフリカでは現地に販売代理店を設立することを通じて販売に協力させて頂いた。その後、通貨危機で起亜が現代自動車に買収されてからは出資関係も解消し、残念ながら取引も大きく減少している。

 もう一つ、韓国での重要な取引先では、先ほども述べたポスコで、長い期間良好な関係を維持させて頂いている。当社はポスコができる前から韓国向けに鋼材を供給しており、ポスコの創業後も特殊鋼や高級鋼を販売していた。また、ポスコの製品を海外向けに輸出させて頂いた。現在は、鉄鋼関連のビジネスは伊藤忠丸紅鉄鋼(株)に移管し、機械・設備の供給と保守を伊藤忠が直接手がけている。

 韓国は伊藤忠にとって重要な拠点のひとつで、85年当時では韓国との取引額は12億㌦に達し、同業他社をしのぎ、日本の商社では当社が首位であった。現在の売上は日本円で約3000億円であり首位ではないが、大切な市場であることに変わりはない。

 ――現在の事業内容は。

 主な取引品目は、繊維原料、船舶、産業機械、自動車部品、原油、LNG(液化天然ガス)、石油製品、化学品、合成樹脂、パルプ、食品などである。なかでも船舶は重要な取扱品目で、韓国の船を日本や第3国に売ったり、逆に日本の船を韓国に買ってもらったりしている。

 このほか、海外の原油やLNGを韓国に納入したり、韓国のアスファルトや液晶を日本・欧米に販売している。

 また、当社と取引して頂いている日本のエステー化学が韓国へ進出する際は、韓国の愛敬化学との提携を仲介し、今春エステー商品の販売を目的に合弁会社を立ち上げた。ここに伊藤忠商事も出資させて頂いている。さらに、直接やっているわけではないが、伊藤忠が筆頭株主であるファミリーマートが出資する韓国ファミリーマートが全国展開を図り、成長しており、韓国での成功例といえるだろう。

 ――今後、韓国ではどのような事業展開を考えているか。

 総合商社としての事業形態は、昔の仲介から独自の自社事業や投資へと変化してきている。最盛期に150人くらいいた韓国伊藤忠の社員は、現在では日本人駐在員7人を含めて30人に減っており、従来型の商社としての仕事は以前と比べると大幅に減ってきている。今後は、韓国に限らず、資源エネルギー、環境などの先端分野を強化していくことになる。韓国企業と組んで第3国の事業に取り組んだり、共同で海外での資源開発をやる方向にいくと思う。

 すでに、SKガスとインドネシアでのLPG(液化石油ガス)輸入販売事業に共同で取り組んでいる。韓国企業とは、海外での資源開発で権益を確保するときなどにパートナーとして参加してもらい、一緒にやりたいと考えている。

 ――韓国と日本の経済交流促進への提言を。

 79年に入社後、まもなく韓国担当になり、両国の経済交流の変化をつぶさに見てきた。当初は機械、プラントを買っていただいていたが、その後は電機品・制御製品になり、最近は両国の企業が組んで第3国でプラントを受注したりしている。日韓は、隣国として足りないところを補う関係になっており、今後10年、20年が経過しても、時代の変化で協力するやり方は変わっても親密な関係は続いていくと思う。これをより強固な協力関係に発展させていくには、1日も早く日韓EPA(経済連携協定)を結ぶことだと思う。さらに、アジア通貨危機の再発を防止し、お互いの海外資産を保護するために「アジア版通貨基金」を設立しアジア地域の為替安定のためのセーフティーネット作りを協力しながら進めることも重要な課題だ。日韓が取り組むべき課題はたくさんあり、われわれも両国の発展のために、全面的に協力したいと考えている。