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2007/11/10

<韓国経済>韓国進出日本企業インタビュー・競争から共創へ 第9回                                          ~野村総合研究所アジア・中国事業コンサルティング部担当部長 米山 晋氏~

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    よねやま すすむ 1957年、神奈川県生まれ。東京工業大学大学院修士課程修了。82年、野村総合研究所入社。2002年8月~2005年3月、ソウル支店長。現在、アジア・中国事業コンサルティング部担当部長。

 ――野村総研が韓国に進出したいきさつは。

 70年代から80年代にかけて、韓国は日本を手本に経済開発を進めようと日本研究に力を注ぎ、特に88年のソウル五輪を契機に高度成長を遂げる過程で、財閥企業や政府から野村総研にさまざまな依頼があった。韓国企業の事業立案に関する調査、コンサルティングや都心の再開発、地域開発などのプロジェクトのお手伝いをしてきた。

 野村総研には、アジアでのビジネスをしっかりやるという方針があり、韓国の発展に貢献したいという考えで、95年にソウル支店を開設した。日本のコンサルティング会社として、韓国に初めて進出した。

 ――韓国ではどのような事業を展開しているのか。

 韓国の政府機関、大手企業をお客様に、官民にわたる幅広いコンサルティングサービスを提供している。コンサルティングのテーマは、政策の立案支援、事業戦略の立案、新規事業の支援、経営改革、グローバル展開支援、日本企業の韓国進出支援、都市・地域開発計画策定などである。

 「顧客とともに栄える」を基本理念とし、ソウル支店のプロフェッショナルを中心に、東京やアジアの他の拠点のメンバーとも協働し、プロジェクトを遂行している。幸いなことに、多くの有力なお客様に信頼をいただき、大きな、重要な仕事を継続的に依頼されるようになった。

 守秘義務があるので、企業名や具体的な内容は明かせないが、公共向けでは最近の心に残る仕事として、ソウル市政府の研究院と共同で実施した、ソウル、東京、香港、北京、上海、シンガポールのアジア6都市の国際競争力研究が挙げられる。研究開発、金融、物流、集客機能などを分析した。現在、ハンナラ党の大統領候補になっている李明博・ソウル市長に私がプレゼンテーションを行い、印象に残っている。

 ――ソウル支店長として韓国に駐在した経験をお持ちだが、韓国の印象は。

 2002年から2005年までの3年弱、3代目の支店長としてソウルに駐在した。多くの若者たちと一緒に仕事をし、彼らのバイタリティー、ビジネスに対する前向きな姿勢に強い刺激を受けた。

 韓国では、人も企業もグローバル意識が日本とは比べものにならないほど強い。例えば、韓国企業が中国に出ていくと、本国とは違う別の会社を中国につくると覚悟を決め、果敢に攻めていく。若者は、海外留学、海外勤務など海外での経験を当たり前のように、自分の人生設計に組み込んでいる。日本は、人も企業も、この点をもっと見習うべきと思う。

 ――これまで野村総研が手がけた事業で成功例は。

 ジャパンデスクの活動を紹介したい。ジャパンデスクは、野村総研の提案に基づき、韓国産業資源部により04年2月に新しく設立された投資誘致専門機関である。韓国は、部品・素材産業が弱く、日本などからの輸入に依存しており、これが対日貿易赤字の原因となっている。ジャパンデスクは、これを是正するために設置されたもので、日本の部品・素材メーカーの韓国進出を支援する役割を果たしている。

 産業資源部から各種の支援を受け、運営は野村総研と韓国部品・素材投資機関協議会が共同で行っている。実績としては、半導体・ディスプレー用の部材、FPD(薄型パネル)向け部材やガラスの大型投資を成功させた。この功績が認められて、韓国政府から韓国の部品・素材産業の育成を通じて韓国経済の発展に尽くした有功者に贈られる「部品・素材技術賞」大統領表彰を受けた。外国人では初めてだそうで、大変光栄に思っている。

 韓国への投資や韓国企業とのアライアンスを考えている日本企業に、ぜひこのジャパンデスクを活用していただきたい。

 ――いま取り組んでいる韓国関連の仕事は。

 日韓経済協会と韓日経済協会が主催する新産業貿易会議が日本で開催され、「少子化と企業経営」が今年のメインテーマとなった。7月に専門委員会ができたが、この委員会主査として、少子化の中で日韓の企業経営はどうあるべきかについて、議論を進めている。女性や高齢者、外国人の活用などがポイントになるだろう。最終的に、来年春の経済人会議での審議を経て政府等へ提言する予定である。

 ――韓日FTA交渉が中断し、政府レベルでの交流が停滞しているが、今後、両国の経済協力を発展させていくには、何が必要か。

 日本も韓国も貿易が成長エンジンの一つだ。韓国は米国とFTAを締結し、EU(欧州連合)とも現在交渉中だ。日本は、韓国はもちろん、アジア、そしてグローバルなレベルで経済連携を図っていかなければならない。そのためには、FTA問題を国民的な議論に高めていくことが必要だろう。

 私どもでアジアの未来について分析したことがあるが、2010年代に向けて中国がアジア経済を活性化していくと思われる。それにつれて、アジアに様々な変化が起きるが、その中で注目すべきなのは新たな購買層となる「中流層」を生みだすことだ。中流層が欲しがる商品、それは日韓両国企業が得意な商品である。そのため、日本企業、韓国企業双方にとって、競争するだけでなく、戦略的に連携することがますます重要になると思う。すでにソニーとサムスンのような戦略的提携の成功例が数多くあり、中小企業を含め、日韓の企業交流の機会をもっともっと増やしていくことが重要だ。