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2004/01/09

<在日社会>演劇活動に人生かける

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              『BENT』での熱演が評価された朴昭熙さん

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              『飛竜伝』での演技が認められた曺成河さん

 20世紀の最高傑作と米国演劇界で高い評価を受け、世界中で上演された演劇『エンジェルス・イン・アメリカ』(トニー・クシュナー作)が、今月20日から東京のベニサンピットで上演される。同劇は80年代のエイズが蔓延した米国を舞台に、死と孤独に立ち向かう人々を描いた感動作。この舞台に本名で活躍する在日3世の若手役者2人が抜擢された。「表現活動に人生をかけたい」と話す2人に抱負を聞いた。

 出演するのは早稲田大学を卒業して文学座付属演劇養成所第41期生として学んだ朴昭熙(パク・ソヒ)〔写真:上〕さんと、法政大学卒業後、北区つかこうへい劇団の10期生として演劇を学んだチョ成河(チョ・ソンハ)〔写真:下〕さんの2人。朴さんは主役の1人ジョー、チョさんは物語全体を見通す天使の役を演じる。

 物語は2部構成、上演時間7時間に及ぶ大作で、練習期間も通常の演劇の倍の8週間かける。

 「何か表現活動をしたいとずっと考えていて、演劇の道に進むことにした。松田優作さんのファンだったので、松田さんと同じ文学座に入った」という朴さん。

 文学座退団後の2002年10月、今回の演劇を主宰するtptが開いた若手俳優のためのワークショップに参加、そこで今回の演劇を演出する英国の著名な演出家ロバート・アラン・アッカーマンに出会った。

 朴さんの表現力と存在感がアッカーマンの眼にとまり、同氏の演出によりワークショップ参加者でナチスによる同性愛者迫害を描いた『BENT』公演を実現、朴さんは主役のマックスを熱演して好評を博した。その演技が認められて、今回の主役抜擢となった。

 「宗教・セクシャリティ・人種など人種のるつぼのニューヨークで、様々な人間達が心の葛藤を抱えながら、人生に立ち向かい真剣に生き、成長していく姿を描いているが、在日コリアン3世に生まれて、いろいろな事を考え経験してきた自分にとって考えさせてくれる。日本も様々な背景を持った人たちが生きる社会に変わりつつあるし、そういう問題を考えながら見てほしい」と、朴さんは語る。

 大学の演劇サークルでずっと活動していたチョさんは、卒業後も演劇の道に進むことを決意、北区つかこうへい劇団に2002年春に入団して、1年間演劇の基礎を身に付けた。昨年秋に上演された『飛龍伝』出演を前後して退団したが、そこでの演技がアッカーマンに注目され、今回出演することになった。

 大学時代の演劇仲間と劇団「ひょっとこ乱舞」を立ち上げているチョさんは、5月に都内で公演を行う予定で、『エンジェルス…』の練習と自分の劇団の公演準備に打ち込んでいる。

 「つかこうへい劇団で基本を学び、今回アッカーマン氏のもとでさらに飛躍するチャンスをつかんだ。演劇を通して自分の人生をさらけ出し、人に見せたい」とチョさんは話す。在日という存在については、「在日は韓国人でも日本人でもない宙ぶらりんな存在だと思う。自分も韓国語はわからない。でも、そういう存在であることを自然に受け止め、それも演技表現に生かしながら活動していきたい」と語った。

 朴さんは在日のアイデンティティーについて、「在日というバックグラウンドを受け入れつつ自然に生きていきたい。韓国語を勉強して韓国の映画にも出てみたいし、在日という不確かな存在も演劇でいつか表現してみたい」と話す。

 tptの門井プロデューサーは、「朴さんはパワフルでストレートなところが魅力。自己表現が苦手な日本人にはない良さがある。チョさんはとても頭のいい青年で飲み込みが早い。日本と在日の若者が今回の演劇を通してどんなメッセージを発信しているか、多くの人に感じてもらいたい」と述べる。


 『エンジェルス・イン・アメリカ』は80年代の米国が抱えた政治・経済・宗教・人種・医療などの問題を、過激でユーモラスに描いた話題作。上演直後から絶賛され、トニー賞作品賞などを受賞。世界中で上演を重ねた。公演は20日から東京・江東区のベニサン・ピットで。℡03・3635・6355(tpt)。