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2005/09/09

<在日社会>山形国際ドキュメンタリー映画祭・在日テーマに45本

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    呉徳洙監督の『指紋押捺拒否』(1984)

 「山形国際ドキュメンタリー映画祭2005」が、10月7日から13日まで、山形市中央公民館をはじめ山形市内の主要映画館で開かれる。特別企画として「日本に生きるということ-境界からの視線」と題して、在日外国人によるドキュメンタリー、また在日外国人が描かれたドキュメンタリーを上映する。在日コリアンをテーマにした作品は24本を予定している。

 「日本に生きるということ-境界からの視線」では、戦前・戦後から現在に至るまでの在日コリアン、在日台湾・フィリピンなどを描いた作品を約50本上映する。この中で在日コリアンをテーマにした映画は45本ほど。

 プログラム「最初期の映画人」では、戦前日本映画界で活躍し、戦後はインドネシアで映画制作にあたった許泳にスポットをあてた『3つの名前を生きた映画人』(97、金載範)が上映される。

 許泳は日本名を日夏英太郎といい、戦前マキノ映画で脚本を書いていた。その後「内鮮融和」を説く日本の国策映画『君と僕』を撮影するなど日本軍に協力、戦後は親日派として断罪されることを恐れ、インドネシアに渡ってドクトル・フユンと名乗り、インドネシア映画界の発展に貢献した。その数奇な人生を描いた作品だ。

 他に戦前・戦後を生きた韓国映画人金学成、李炳宇、金順明の3人を扱った映画も上映される。

 歴史をテーマにした作品では、在日50年の歴史を描いた特別招待作品『在日』(97、呉徳洙)、朝鮮人被爆者の問題を描いた『もうひとつのヒロシマ アリランのうた』(87、朴寿南)、強制連行、強制労働に従事させられた人たちの証言を集めた『百万人の身世打鈴』(00、前田憲二)などがある。80年代の指紋押捺拒否運動の記録映画も上映される。

 「在日作家の新風」では、在日3世の金聖雄監督が川崎在住の在日1世のハルモニ(おばあさん)たちの生活を記録した『花はんめ』(04)、同じく在日3世の松江哲明さんが、在日のAV男優の姿を追った『IDENTITY』(04)などが上映される。

 松江さんの作品は2部構成で第1部は在日3世のAV女優が、撮影を重ねながら生まれ故郷の尾道に戻る途上で在日について話す。ロードムービー、第2部はAV男優歴15年の民族学校出身の男性が、在日への思いを語る異色作だ。

 また「アジア千波万波」では、在日2世の女性監督・梁英姫さんが、父母の人生、平壌に割った兄たちの足跡を記録した『DearPyongyang』(05)、ベトナム戦争に参戦した韓国軍兵士に虐殺された遺族の証言を集めた『狂気の瞬間』(04、イ・マリオ)など5本が上映される。
 
 山形国際ドキュメンタリー映画祭は、世界の優れたドキュメンタリー映画を多くの人に鑑賞してもらい、その魅力を浸透させること、ドキュメンタリー映画の新しい概念を模索する、若い映画作家の才能を発掘し交流の輪を広げることを目的としている。89年から隔年で開催され、今年で9回目を迎える。山形市が誕生して100年を祝う記念事業のひとつとしてスタート。

 山形市で始まったのは、同市にたくさんの映画館があり市民出資の映画館が誕生していたなど、映画愛好者が多いという素地があったこと。2つめは隣の上山市を拠点としてドキュメンタリー作家の小川紳介監督が活動していたこと。3つめには80年代末、欧米を中心にドキュメンタリー映画を見直す動きが起こっていたことがある。

 今年の映画祭は「日本に生きるということ」のほかに、世界中の応募作品から選ばれた珠玉の15本を紹介するインターナショナル・コンペティション、日本を含むアジアの新進作家の作品を紹介する「アジア千波万波」などで構成されている。

 『月はどっちに出ている』『血と骨』などがヒットした在日2世の崔洋一監督も審査員に加わっている。問い合わせは東京事務局℡03・5362・0672、山形事務局℡023・624・8368。