ここから本文です

2005/08/19

<在日社会>開城商人の数奇な半生描く

  • zainichi_050819.jpg

             「アントニオ・コレア/ベニスの開城商人」

 400年前に朝鮮から日本に連行され、奴隷として渡ったイタリアのベニスで大成功した開城商人を描いた歴史小説が、静かな話題を呼んでいる。主人公の波乱万丈の人生は、混迷の時代を生きる私たちに示唆を与えてくれる。晩夏にぜひ読んでほしい一冊だ。

 豊臣秀吉軍にとらわれた19歳の水軍兵士、柳承業の波乱に満ちた生涯を描いた「アントニオ・コレア/ベニスの開城商人」(碧天社)。

 長崎で奴隷として売られる運命にあった承業は、彼の聡明さを惜しむ庄屋の久衛門父娘の助けで解放され、宣教師ステファノとともにイタリア商船に乗ってベニスへと旅立つ。そのころ欧州では、宗教戦争の動乱を通じて近代欧州諸国家の枠組みが成立しようとしていた。

 十字軍の基地として商業的に発展したイタリアでは、やがてベニス・フィレンツェなど有力な商業都市の繁栄を見る。そのベニスで、朝鮮の商業都市・開城出身の承業は、努力と才覚により大商社カンパネラ社の最高経営者に上り詰める。

 記録によれば、あるフィレンツェ人が秀吉軍に連行された朝鮮の若者「アントニオ・コレア」を長崎からイタリアに連れ帰ったという。またイタリア南部にコレアという姓を持つ人々が今も暮らしている。またルーベンス作とされる「朝鮮服を着た男」という絵がある。これら3つの事実の組み合わせから構想された小説だ。

 作者呉世永のリアルでドラマチックな展開は読む者を飽きさせない。時代考証も確かだ。朴性守氏の翻訳も格調高い。

◇在日の本も出版◇

 在日関係の本も多数出ている。「新版 在日韓国・朝鮮人と人権」(有斐閣)は、在日韓国・朝鮮人の人権問題と増え続ける定住外国人の処遇問題を探り、日本が真の意味で国際社会に開かれ、だれにとっても住みやすい「アジア市民社会」となるため、徐龍達・桃山学院大学名誉教授と大沼保昭東京大学教授が、86年に編集した本の新版。

 この20年間の韓朝日関係の変化、指紋押捺制度の廃止、韓流ブーム、日本人拉致問題などに触れながら、在日の人権について語る。在日の人権運動の歴史を知る上でも貴重な資料だ。

 南北統一を願ってワンコリアフェスティバルを開催し続けてきた在日3世の鄭甲寿さんの著書「ワンコリア風雲録 在日コリアンたちの挑戦」(岩波ブックレット)が出た。大阪・生野区の在日密集地・猪飼野に生まれた著者が、1985年の解放40周年を機に、在日の立場で新しい統一ビジョンを目指し「8・15(40)民族・未来・創造フェスティバル」を創設。以後毎年開催し(90年にワンコリアフェスティバルと改称)、現在ではイベントを超えた市民ネットワークとして機能するまでの20年間の記録。

 兵庫県尼崎市にある夜間中学、城内(現・成良)中学校琴城分校。そこに通う人たちの姿を記録したのが「夜間中学の在日外国人」(高文研)だ。同校には平均年齢70歳の在日韓国・朝鮮人や、帰国した中国残留孤児、ベトナム・アフガン難民、そして60年前の戦争で就学の機会を奪われたまま年老いた日本の人たちが学ぶ。その人たちの写真とインタビューを通して、現代日本の別の側面を伝える。著者は写真家の宗景正さん。

 「海に沈む太陽」(筑摩書房)は、在日2世の作家、梁石日さんの新作。16歳で家出をした輝雅が、船員となって米軍のLST(上陸用舟艇)で東南アジア各地を航海する。そして様々な職業を転々とした後、いつしか画家になる夢を持ってニューヨークへ旅立つ。イラストレーターであり画家である黒田征太郎氏の青春時代を下敷きに、著者がフィクションとして構成した。