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2005/01/21

<在日社会>韓日協定文書公開・切り捨てられた個人補償

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    ソウルの駐韓日本大使館で嗚咽する太平洋戦争犠牲者遺族会の会員ら。韓日協定の文書が公開された17日午後、犠牲者の写真を胸に抱えて韓日両政府に対する憤りを訴えた

 韓国政府が17日、韓日国交正常化交渉をめぐる会談文書を一部公開し、両政府が当時、戦争被害者への個人補償を経済協力として処理する方針で妥結した過程が明らかになり、日本で戦後補償を行っている当事者や支援者にも波紋を呼んでいる。

 韓国政府が17日、韓日国交正常化交渉をめぐる会談文書を一部公開し、両政府が当時、戦争被害者への個人補償を経済協力として処理する方針で妥結したことが判明したことは、日本で戦後補償を行っている当事者や支援者にも波紋を呼んでいる。

 韓国の太平洋戦争犠牲者遺族会は今回の文書公開を受けて、韓国政府と日本政府に対し訴訟を起こす準備をしていることを明らかにした。遺族会の梁スニム会長が明らかにしたもので、梁会長は「韓日協定は個人の権利を剥奪して両政府が結んだもの」として、「戦後日本政府が韓国側に送還した韓国人犠牲者は、犠牲者全体の1割にもならず、遺体を送還されなかった残り9割の遺族の精神的被害に対する補償を求めて日本政府に遺体未送還遺族被害賠償訴訟」を起こす。

 一方韓国政府に対しては、朴政権時代に一部実施された補償から除外されてきた被害者への救済を求める訴訟と、韓日会談で誤った被害者補償交渉を行ったことに対し、再交渉を求める訴訟など4件を準備している。

 従軍慰安婦問題に取り組んできた韓国挺身隊問題対策協議会は、「韓国政府は5件の文書だけでなく、すべての文書を公開し、屈辱的な歴史を作ったことの真相究明をすべき」との声明を発表し、「韓日協定で扱われなかった日本軍慰安婦被害者の名誉と人権回復のため、韓国政府は日本政府に今後も外交活動を続けていくべき」と主張した。

 日本軍慰安婦被害者のイ・オクソクさん(83)は、「日本軍に苦しめられたことを思うと、いまも涙が出る。慰安婦にさせられた女性が病で苦しんで死に、集団虐殺された。日本政府がなかったことといえるのか」と訴えた。太平洋戦争被害者補償推進協議会のイ・ヒジャ共同代表は、「日本は強制動員に対する責任を回避するため、経済協力という用語に固執した。日本も文書を公開し、自ら解決する姿勢を見せることで、望ましい韓日関係が築かれる」と語った。

 インターネット上でも議論が起こっている。市民からは「当時の政権が屈辱的な外交を行ったことを知らなかった。全貌を明らかにしてもらいたい」「いまからでも被害者に補償をしてあげてほしい」などの声が寄せられている。

 野党のハンナラ党内部では、朴槿恵代表の実父である朴正熙大統領(当時)の外交姿勢が明らかになったことで、「(文書公開が)朴槿恵代表への攻撃に政治的利用されてはならない」と党指導部がけん制しているが、一方で「党は過去の歴史問題を回避してはならない」との異見も内部で出ており、慎重に対処する予定だ。

 与党開かれたウリ党の文炳浩議員(国会保健社会福祉委員会法案小委員会委員長)は、太平洋戦争犠牲者と遺族を支援する「太平洋戦争犠牲者生活安定支援法」を、2月の臨時国会で処理すると明らかにした。

 また韓国政府は、補償を求める声が今後急拡大する可能性があることを受けて、対応措置の取りまとめに入った。

 第2次大戦中に日本軍の軍属として徴用され、戦後は戦犯とされた経験を持ち、日本政府に謝罪と補償を求めて裁判を起こした同進会の李鶴来さん(79)は、「裁判は最高裁まで行ったが敗訴し、現在日本の国会に対し、立法化を求めて運動している。今回の文書公開を見て、当時の韓国政府があまりにも弱腰だったことに驚いている。謝罪も賠償もなく経済協力ですませたことは納得できない。私たちは日本の謝罪と補償を求めて、命ある限り運動を続けていく」と話した。

 戦後補償問題に長年取り組んできた高木健一弁護士は、「日本の官僚が目先の国家利益だけを優先し、経済苦境にあった韓国の足元を見て交渉したことがよくわかる。こういう交渉姿勢が、現在のアジア諸国や北朝鮮との関係にもつながっている。日本はアジアと対等な関係を築こうとしてこなかったことを猛省すべきだし、日本側も日韓条約に関する外交文書を明らかにして、被害者への補償に取り組むべきだ」と主張した。

 韓国の市民団体とともに運動を進めている「戦後補償実現JKネットワーク」のメンバーで在日2世の金英姫さんは、「韓国では政府による植民地支配、軍事政権下での事件の真相究明の動き、強制連行被害者や遺族たちの救済要求がこの間高まり、その中で今回の韓日協定文書の公開が実現した。韓国社会の民主化がより促進される中での出来事で、歓迎すべきことだ。条約当時、韓国内では屈辱外交の声が出たが、日本があくまで経済協力で押し切ろうとしたこと、韓国政府が補償よりも経済協力を優先させたことが改めて鮮明になった」と語り、「日本の一部マスコミでは、『これで日本への補償要求は終わった』との声が出ているが、それは筋違いではないか。被害者が要求してきたのは、日本政府の謝罪と賠償だからだ。被害者が納得することはないし、日本の戦争責任を空洞化してはいけない」と強調した。

 歴史学者の姜在彦さんは、「日本の植民地支配をあいまいにしたことで、いまも日本の政治家の妄言が続く余地を残した。これが一番大きな問題だ。さらに韓国の被害者の個人補償が切り捨てられただけでなく、在日の被害者の個人補償も排除される余地を残した。それが戦後補償裁判での敗訴につながったのだから責任は大きい。北朝鮮と日本の国交正常化交渉でも、平壌宣言で経済協力が確認されているが、同じ轍を踏むことになる危惧がある」と述べたうえで、「一方では韓日協定によって人的往来が活発になり、それが現在の400万人往来につながった。在日韓国人が協定永住権を取ったことで在留資格が安定し、それが現在の特別永住につながった。そういうプラス面も見ておく必要がある」と語った。