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2007/11/16

<在日社会>TVドラマ『海峡』・韓日間で引き裂かれた純愛描く

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    NHKドラマ「海峡」のワンシーン

 韓国人男性と日本人女性の海峡を越えた愛を描くドラマ「海峡」(全3回)が、17日からNHKで放送される。演出の岡崎栄さんに文章を寄せてもらった。

 いままでNHKで作られた韓国関連の番組はどのくらいだろう。私も二つの番組を作っている。一つは「離別(イビョル)」、もう一つは「わが祖国」。「離別」はドラマで、もう亡くなられた作家飯尾憲士さんの「ソウルの位牌」が原作、「わが祖国」は韓国農業の父と言われる禹長春博士の生涯をドキュメンタリーで辿った。

 ほぼ1年前のある日、元NHKドラマ部の部長だったK君から、一枚の企画書と分厚い資料を渡される。中にはジェームス三木さんの名前が見える。それがドラマ「海峡」の発端だった。

 資料の中に一通の手紙があった。当時84歳の女性Sさんの手紙だった。韓国ドラマ「冬のソナタ」を欠かさず見ていた。自分の人生がドラマの映像に重ねると、駐日韓国大使館の朴承武・経済担当公使(当時)に宛てて書いた。朴公使が日本語で出版された著書に感動して、自分の人生を知ってほしいとの思いだったのだろう。

 その手紙に書かれたその人生とは…。Sさんは釜山で生まれ釜山で育った。終戦前、釜山高等女学校を卒業して京城に移り、水力発電会社に勤めていたが、両親の死で天涯孤独の身となったSさんの前に現れたのが、一人の韓国人青年だった。

 日増しに深い感情になっていく二人を引き裂いたのは日本の敗戦と、その後に続く内地への引揚げだった。そのあと日本での再会、青年の強制送還による再度の別れ、そして子連れの日本人との結婚、義母との確執と、Sさんの波乱万丈の人生は続く。初老の域に入った二人が釜山で再会したのは別れてから27年もたった1975年のことだった。

 この手紙が朴公使から東洋経済日報の金時文編集局長に手渡され、さらに金さんからジェームス三木さんに届けられる。そしてNHKでドラマ化されることになった。旧満州からの引揚げ体験を持つジェームス三木さんには、まさにうってつけの企画だった。

 半年間の準備期間を経て、ドラマの撮影が7月始まった。Sさんの引揚げが12月だったということもあって圧倒的に冬のシーンが多いのに、真夏の撮影である。引揚げのシーンだからたくさんのエキストラが必要になり、現場の方たちの参加協力なしには撮影は成立しない。韓国ロケでは韓国人の方に日本人になっていただき、釜山駅前ではうだるような炎暑の中での撮影になった。

 どこもそうだが、終戦の頃の風景は、もうほとんど消滅し、特に韓国は至るところ高層マンションが林立して、ふさわしい場所を見つけ出すのは至難の業に近い。富川、水原、そして春川、大田、群山、慶州、釜山に近い三浪津と釜山、都合三度ソウル―釜山間を往復した。走行距離は3000㌔を越えているだろう。

 日本もそうだ。京都、大阪、大津、舞鶴そして北九州と転々とした移動が続いた。列車も当時はSLだから、韓国では鉄道博物館にお世話になった。日本では、東京の小金井公園で展示されている列車を使った。

 主題歌はさだまさしさんの「かささぎ」。新しく作詞作曲、そして歌をお願いした。カササギは、私たちにはなじみの薄い鳥である。九州の佐賀県には豊臣秀吉の時代に朝鮮半島から持ち帰ったとかで、たくさんのカササギが住んでいる。この鳥には韓国の方ならばほとんどの方がご存知の話がある。七夕の夜、もし雨になれば、織姫と彦星は逢うことができない。そこでたくさんのカササギが集まり、羽を広げて橋を作り二つの星を渡らせる。この話をもとにさださんが作ったのが「かささぎ」である。

 実はカササギは長時間飛ぶことができない。だからカササギは絶対に海を越えられない。それが、主人公2人の関係を象徴している。2人にとっては遂に越えられなかった海峡なのである。ぜひとも日本人だけでなく韓国人の方にもご覧いただき、二つの国の間に横たわる海峡の意味をお考えいただきたい。日韓友好のために。


  おかざき・さかえ 1930年生まれ。1953年東京教育大学文学部卒。同年NHK入社。現在フリー演出家、脚本家。主な作品に、ドラマ「若い季節」「天と地と」「天下御免」「マリコ」「大地の子」「エトロフ遥かなり」。他につくば科学博、愛知万博開会式総プロデューサー。紫綬褒章、芸術選奨など受賞多数。 


 *放送は第1回=17日午後9時~10時15分、第2回=23日午後10時~11時15分、第3回=24日午後9時~10時15分。


■「海峡」あらすじ

 1945年、日本の敗戦を迎えた釜山で、韓国人青年・朴俊仁と日本人女性・吉江朋子は出会う。2人はそれぞれの祖国で生きるために別れるが、国交の途絶えた日本で再会し、一緒に暮らし始める。しかし、朴は密入国者として強制送還される。長く音信不通が続く中、朋子は日本人男性と結婚する。そして、戦後30年経ったある日、朴からの手紙が…。