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2000/09/29

<総合>経済パートナーシップ進展

 22日から5日間にわたる金大中大統領の訪日成果は何だったのか。熱海で森喜朗首相と2回にわたるトップ会談を持ち、経済分野ではIT(情報技術)分野の協力などの成果をあげたが、対北朝鮮支援や永住外国人の地方参政権では明確な回答が得られなかった。扉を広く開き多分野にわたる協力を提案した積極姿勢の金大統領に比べ、参政権にみられるように森首相からは踏み込んだ発言がなく、及び腰の印象が強い。韓日パートナーシップを前進させた会談だったといえるだろうか。

経済協力

 経済関係は、今回の金大中大統領訪日でまた一歩前進した。まず、部品・素材の対韓投資雰囲気をつくった。韓日両国経済の最大懸案である貿易不均衡問題を構造的に解決していくうえでも重要なテーマだった。金大統領は23日の首脳会談で、「対日貿易赤字は今年100億ドルを超える見通しであり、日本の部品・素材産業を韓国に移転するための実務協議を始めよう」と提案した。森首相は「労使問題などの環境改善が必要」と注文をつけながらも、「政府としても協力する」と大統領提案を受け入れた。
 随行した辛国煥・産業資源部長官は、「日本が部品・素材分野の投資を準備しており、11月6日に日本から大規模な投資環境調査団が訪韓、具体的に投資問題を論議する予定だ」と明らかにした。日本の対韓投資は昨年17億5000万ドルを記録、前年に比べ3倍も増えたが、欧米などと比べ投資額はまだまだ少ない。日本から70億ドル程度を誘致するため、環境整備に取り組んでいることを大統領自らアピールした。このため、投資協定締結にこぎつけたかったが、「年内締結に双方が努力する」にとどまった。
 成果の第2は、IT分野で韓日協力を促進する「IT協力イニシアチブ」の採択。共同研究・開発、人的交流、情報交換など8項目からなり、急進展する企業間の電子商取引などで韓日が共同で世界市場に乗り出そうという戦略だ。成果の第3は韓日自由貿易協定締結に向けて民間経済人らの対話の場であるビジネスフォーラムの設置。両国の民間経済人や有識者らが参加し、国民的議論へと発展させようという考えだ。10月下旬に全国経済人連合会の会長らが来日、日本側と運営方法などを協議する。
 自由貿易協定については、研究レベルでは韓日双方から研究結果が出ているが、今回の首脳会談では貿易不均衡問題を考慮せざるを得ず、中長期的に取り組むことで一致した。民間協議で議論を煮詰めた後、政府レベルでの交渉を検討することになる。

対北朝鮮支援

 今回の訪日の重要テーマに対北朝鮮支援を日本から取り付けることがあった。金大統領は、
1.韓日が協力して電力やインフラ整備の支援をする必要がある
2.北朝鮮は100年来の大干ばつがあり、台風被害もあって来年は今年以上に深刻になる。コメなどの積極的な食料支援が必要--などと促した。だが、森首相は「ミサイルの開発や配備計画は中断されなければならない」と慎重姿勢を示し、コメ支援は「政府内で検討している」と答えるにとどまった。
 金大統領は、北朝鮮と日本の関係改善を希望、金正日総書記とのトップ会談を勧めた。森首相は「意思疎通を効果的に行うことが重要であり、準備が整えば会うこともある」と述べた。対北政策に関して、従来どおり韓米日が緊密に協力し合うことで一致したが、見るべき進展はなかった。

地方参政権

 首脳会談前から重大テーマとして浮上していた。金大統領は、「日本政府の力で参政権付与が実現すれば、韓国人への日本人への信頼感や感謝の気持ちが高まる。在日韓国人は日本社会の善良な一員として一層寄与するだろう」と日本にとっても大きな意義があることを力説し、法案の年内成立を求めた。だが、森首相は「日本の制度の根幹にかかわる問題だ。関心を持って注意を払っていきたい」と述べるにとどまり、国会にげたを預けた形だ。共同記者会見の冒頭挨拶でも金大統領は、参政権のやりとりに触れたが、森首相の冒頭挨拶には一言もなかった。
 現在、参政権法制化は大詰めの段階を迎えており、反対論がある自民党内でも論議が本格化している。積極推進論者の野中広務幹事長は、反対派を抑えるため、在日同胞が95%以上を占める「特別永住者」52万人に限定する案を出しており、地方自治体条例で決める案が飛び出すなど混迷状態にある。今回の首脳会談で森首相はリーダーシップを発揮できなかった。

国民交流

 金大統領は、訪日前に2002年までに日本大衆文化を完全開放すると明らかにした。首脳会談でも、国民交流の増大に対処するため、羽田とソウルを結ぶシャトル便の運航を提案したり、韓日海底トンネル構想を打ち出すなど、積極的だった。天皇訪韓についても、「いつ来られても成功裏に終わるように準備したい」と強調した。森首相からは2002年からの大学入試センター試験から外国語科目に韓国語を追加するとの表明がなされた。韓国側の要請を受けたものだが、トップ会談での日本側からの唯一の提案だった。