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2006/06/16

<総合>不老長寿夢実現か・老化抑制物質を開発

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                     金 泰国 教授

 成長が止まった古い細胞を健康な若い細胞にする「夢の物質」が、韓国の研究陣により開発された。これにより、老化抑制研究と老化に伴う疾病の治療剤開発などが期待される。新物質を開発したのは韓国科学技術院(KAIST)の金泰国教授(キム・テグク、42)チーム(生命科学)。研究成果(論文)は英国の科学ジャーナル誌「ネイチャー・ケミカルバイオロジー」7月号に表紙論文として掲載される。すでに電子版では掲載されており、世界の科学界から大きな注目を集めている。不老長寿は人類の永遠の夢だ。この夢実現に向けた「画期的な成果」となるだろうか。

 今回の研究開発を成功に導いた金泰国教授チームはこのほど、「韓国科学研究院、韓国生命工学研究院、バイオベンチャーのシージーケーとの共同研究で、細胞の老化を抑制し、これの寿命を延長する「CGK733」という新薬候補物質を世界最初に開発した」と発表した。

 研究成果の詳細な方法論は、「ネイチャーケミカルバイオロジー」誌の電子版で紹介されている。論文によると、老化し形も衰え増殖も止まった細胞上皮にCGK733を注入した結果、この細胞が再び分裂し始め、形も正常な若い細胞に戻った。しかし、CGK733を除去すると再び老化が進行した。

 これは、今回開発した物質が細胞の老化を止めたり、進行させる一種のスイッチの役割を果たすことを意味する。研究チームは、「独自開発した高効率新薬物質の発掘方法であるマジック技術を活用して、その正確なメカニズムを解明した」と明らかにしている。

 金教授は、「老化研究を画期的に進化させることができる」として、近く米国のバイオ企業にライセンス供与して、新薬開発のための後続研究を続ける」と語った。

 細胞の老化は自然な生命現象だが、その速度が速くなりすぎると認知症のような病気になる。また、老化した細胞は傷の治りを遅らせシワをつくる。今回開発された新物質CGK733が実用化されれば、このような老化による様々な症状を改善することができ、「不老長寿」も夢でなくなる。

 老化のメカニズムはまだ解明されておらず、さまざまな説がある。一般的に、老化はあらかじめ遺伝子にプログラムされた現象であり、寿命も遺伝子により制御されていると言われている。現在、世界の多くの科学者は老化を抑制し寿命を延ばす研究に取り組んでおり、ケンブリッジ大学のオーブリー・デ・グレイ博士は、「不老長寿は近いうちに実現する。20年後には1000歳ぐらいになる可能性もある」と言っている。

 だが、世界の科学者は長い研究の中でも実際に人間の細胞の老化を調節できる物質を開発できなかった。今回の金教授チームの開発が事実上世界最初だ。金教授は、「老化した細胞に入ったCGK733が、細胞の成長や制止を決めるATMというタンパク質と結合することで、老化プログラムを抑制することを突き止めた」と説明した。その方法はマジック技術を活用した。

 それは、磁気を帯びた微細粒子を新開発物質につけて細胞に注入した後、外部から磁石を当ててこの物質がどんなタンパク質と結合するかをリアルタイム映像で確認する技術だ。下敷きの上の鉄粉を下から磁石で動かすのと同じ原理だ。 

 金教授は「今後、認知症のような細胞の老化が異常に早くなる疾病を抑制する新薬を開発する計画だ」と明らかにした。

 今回の新物質の有効性について、ネイチャーケミカルバイオロジー誌は、各国のメディアに配布した報道資料で、「CGK733は自然老化を遮断することで、動物細胞の寿命を延長させることができる」と強調した。金教授は昨年、サイエンスにこの方法を発表、世界の製薬メーカーから技術移転の要請を受けている。

 研究チームは、新物質を活用して、まず傷の治療やシワをなくす薬を開発し、長期的には老化抑制と認知症など老化関連疾患治療剤を開発する計画だ。このなかで、シワ改善剤などはスキンケア製品として短期間内に製品化が可能とみられる。

 また、米国の有力バイオ企業に新物質をライセンス供与して共同研究を推進する。

 今回の研究を主導した金教授は、ソウル大を卒業し、米国のロックフェラー大で博士学位を授与された。ハーバード大学教授を経て2003年からKAIST教授に赴任。