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2012/06/15

<総合>サムスン・「第2の新経営」に乗り出す

  • サムスン・「第2の新経営」に乗り出す

    崔志成・未来戦略室長

 韓国最大の大企業グループ、サムスンが「第2の新経営」に乗り出した。李健煕(イ・ゴニ)サムスン電子会長は、欧州債務危機に端を発し不況色を強める世界経済の現状を「市場の危機」と規定し、未来戦略室長に崔志成(チェ・ジソン)サムスン電子代表理事副会長を任命した。未来戦略室長はグループナンバー2のポスト。グループ全体の事業調整を行う未来戦略室のトップを交代したことで、サムスンのグループ経営全般に大きな変化を予告している。

 未来戦略室長の電撃的な交代は、李会長の3週間にわたる欧州・日本視察直後に決まった。李会長は帰国後、各国の経済状況について「予想以上に悪い」との印象を述べ、サムスンの社長団に対し、いかなる状況でも競争力を維持できるよう大胆な革新を指示した。 

 未来戦略室の李仁用(イ・イニョン)コミュニケーションチーム長は「李会長が第2の新経営に準じる革新的変化がなければならないと強く注文した」と明らかにした。

 現在、サムスンは半導体、テレビ、携帯電話部門は世界トップレベルにあるが、世界展開できる新成長エンジンを速やかに育成しなければならない時期だ。そのため、グローバル経営感覚と素早い判断力、強い組織掌握力と推進力を備えたと評される崔志成氏が危機突破の担い手として抜擢された。

 崔氏は「CEO(最高経営責任者)は実績で物を言うべきだ」というのが持論。現場経験が豊富な野戦司令官タイプで、テレビや携帯電話事業を世界一に押し上げ、李会長の信任も厚い。未来戦略室関係者は「李会長の要求に応えるのに最適な人物」と説明した。

 崔氏は1951年生まれ。ソウル大貿易学科を卒業し、サムスン物産で勤務。秘書室に4年間勤務。半導体事業部に異動し、半導体世界一の基礎作りに貢献した。新経営宣言直後の93年から1年余、再び秘書室勤務を経て、06年に液晶テレビの「ボルドー」でソニーを抑えて世界一を達成。パソコン用モニターや携帯電話でも世界トップの神話をつくった。

 今回の人事が発表された6月7日は、93年の「新経営宣言」19周年に当たる日だ。当時、李会長は「妻と子を除いてすべてを変えよ」と全面的な変化を要求した。今回の人事は「新経営宣言」レベルの大きな変化の始まりと見られている。

 経営戦略室関係者は「李会長が新経営宣言で品質の危機を指摘したとすれば、今回は市場の危機に注目した」と語った。危機突破の特命を帯びているだけに系列企業の実績管理に崔室長の手腕が試されることになった。

 前任の金淳澤(キム・スンテク)・未来戦略室長は健康上の問題で辞任したが、事実上の更迭と見られており、経営の一線から退く。崔氏の後任のサムスン電子代表理事には権五鉉(クォン・オヒョン)副会長が就くことになった。


◆視 点◆

 サムスンは2000年代に入って、デジタル時代の強者として登場した。モバイル機器で、唯一アップルに匹敵する実績をあげている。だが、「現在の実績に安住し世界が不況に転落する現状を危機と感じなければより危険だ」というのが李会長の認識だという。

 実は、グループの要であるサムスン電子は好業績をあげているが、グループ全体としては深刻な課題も抱えている。

 まず、新事業がみるべき進展をとげていない。2010年5月に太陽電池、自動車用電池、LED(発光ダイオード)、バイオ製薬、医療機器を5大事業として育成すると宣言し、投資を重ねてきた。だが、自動車用電池を除き、太陽電池やLEDなどは赤字事業状態にある。

 サムスン電子が公正取引委員会の調査を妨害した事件や故李秉喆会長の遺産をめぐる兄弟間の相続訴訟、さらには経済民主化要求の高まりへの対処など難題が多い。

 このような新事業をテコ入れし、グループに内在する難題に対処するため、未来戦略室の役割がクローズアップされた。他の大企業グループと違い、サムスンの未来戦略室はグループ全体の重要な投資と未来事業発掘、企画、監査、系列企業役員人事などを統括しており、その役割はもともと大きかった。

 李会長は危機に対応、グループの総力を結集しなければならないと考えており、今回の人事を契機に未来戦略室の機能は大幅に強化される見込みだ。李会長は、崔室長を通じてサムスン電子の成功DNAを他の系列企業にも伝播させたいと考えているとみられる。


 ◆未来戦略室 売上高274兆ウォンに達するサムスングループのコントロールタワー。1959年からの秘書室が母体。その後、構造調整本部―戦略企画室―未来戦略室と名称を変えてきた。現在のメンバーは約100人。未来戦略室長は、系列会社約80社、国内外約30万人の従業員を統率、系列企業のCEOの実績を最初に評価する強大な権限を持つが責任も重い。