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2010/05/14

<オピニオン>メディア活用というビジネスモデル                                                                 サムスンSDI 佐藤 登 常務

  • サムスンSDI 佐藤 登 常務

    さとう・のぼる 1953年秋田県生まれ。78年横浜国立大学大学院修士課程修了後、本田技研工業入社。88年東京大学工学博士。97年名古屋大学非常勤講師兼任。99年から4年連続「世界人名事典」に掲載。本田技術研究所チーフエンジニアを経て04年9月よりサムスンSDI常務就任。05年度東京農工大学客員教授併任。08年度より秋田県学術顧問併任。著者HP:http://members.jcom.home.ne.jp/drsato/(第1回から60 回までの記事掲載中)

 韓日間の経済交流が活性化する中、韓国企業で働く日本人技術者やビジネスマンが増えている。本田技術研究所のチーフエンジニアを経て、2004年にサムスンSDI中央研究所の常務に就任、現在は拠点を東京に移し、日本サムスンに逆駐在の形で席を構えた佐藤登さんの異文化体験記をお届けする。

 近年のマスメディアに共通する話題は韓国企業の躍進、韓国製品の市場浸透、韓国企業ブランドの向上等が多く、以前は韓国企業が日本企業をベンチマークする時代が続いたものの、昨今は逆に日本企業が韓国企業をベンチマークするケースが目立っている。特にサムスンがその代表として採り上げられる状況が続いていて、新聞、ジャーナル、週刊誌等々、毎日と言って良いくらいにさまざまな記事が掲載されている。

 とは言っても、メディアの記者達が誰にインタビューをするかによっては内容や表現に差が生じるし、メディアによっては誤解を招く表現や時には間違いがあるケースも生じ、正しい事実が伝わらない弊害もある。仮にメディアが表現したいストーリーが先にあるとするならば、それに沿った内容を話してくれるメンバーを選べばいいということになる。

 例えばサムスンの躍進を支えているメモリ半導体、薄型テレビやパネル技術、それに最近のリチウムイオン電池などにおいて、デザインやブランド力、技術開発や生産技術が向上したことで世界トップあるいはトップクラスに躍り出たという表現もあれば、一方では、未だに韓国企業は日本の技術の物真似に過ぎないという表現の報道もある。しかし、物真似だけで世界トップになれることはないので、後者の表現には何か欠落した視点があるということだろう。

 したがって、いかなるメディアもより客観性をもった情報伝達に心がける報道責任がある。そのためにも一方的に記述されないような工夫、例えば企業自体が積極的にメディアへの説明を行い、正しい実態を発信するという広報戦略が重要になってくると考える。

 5月9日のNHKにて放映された「自動車革命」の取材のひとつとして、前に勤務していた本田技術研究所の研究開発現場が採り上げられた。昨今の環境自動車がハイブリッド車や電気自動車を軸に電動化のベクトルで推移している動きの中で、電動化の流れの中軸を担うのが電池であり、とりわけリチウムイオン電池に大きな期待がかかっている。ホンダの前の部下や後輩がインタビューに応じて活気ある雰囲気を醸し出していたのが印象的だ。一般に、企業の研究開発現場が報道の目に晒されることは稀で、特にこのような先端技術領域は公開しないのが原則である。ホンダは特にその制約を厳しくしていたにも拘わらず、敢えて放映に応じた意味を考えると、国内外の多くの自動車企業やベンチャー企業が電気自動車分野を開拓あるいは新規参入している現状にあって、ホンダが電気自動車の最初の量産車を1997年に米国カリフォルニア州に対して販売した実績、初代ハイブリッド「インサイト」を1999年に販売したことでの10年以上を超える長期間の開発の歴史と実績があることを訴求し、その優位性を主張し主導権を確保していく意志の表れとも受け取れる。

 米国や中国では電気自動車の新規参入ベンチャー企業が多く出現したが、自動車に対する安全性や信頼性は一朝一夕で培われるものではないので、特に新規参入企業の電気自動車が各市場で5年10年経過した時にそのレベルが明らかになると言える。そのあたりが一般の家電製品やモバイル製品と異なるところである。

 広報活動も製品の信頼性や魅力を伝える手段としては重要な戦略であり、ブランド創り、神話創りにも大きく貢献する。そのような趣旨から最近のメディアを通じて、経営トップが積極的にメッセージを発するようになってきた。発信戦略という位置付けで意識的にメディアに登場する傾向が強まってきているように映る。

 サムスンが打ち出した「ビジョン2020」、すなわち2020年の売上高約40兆円という経営目標の報道も、既存事業だけではなく医療、バイオ、エネルギーなどの新規事業参入を戦略的にメッセージとして発していることでもある。国際戦略あるいは国際標準化が各分野で推進されている中にあって、このような広報やメディア発信はイニシアティブを取得する上で効を奏す場合が多い。これからの国際化戦略では、メディアを通じて情報が流れてしまったという消極的かつ否定的認識ではなく、メディアを賢くスマートに活用することで、企業メッセージを正しく理解してもらう手段としての積極的かつ戦略的な行動が求められることと考える。


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