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2010/12/03

<オピニオン>今後の成長事業とビジネスモデル                                                                 サムスンSDI 佐藤 登 常務

  • サムスンSDI 佐藤 登 常務

    さとう・のぼる 1953年秋田県生まれ。78年横浜国立大学大学院修士課程修了後、本田技研工業入社。88年東京大学工学博士。97年名古屋大学非常勤講師兼任。99年から4年連続「世界人名事典」に掲載。本田技術研究所チーフエンジニアを経て04年9月よりサムスンSDI常務就任。05年度東京農工大学客員教授併任。08年度より秋田県学術顧問併任。著者HP:http://members.jcom.home.ne.jp/drsato/(第1回から67回までの記事掲載中)

◆強みを活かした事業展開を◆

 サムスンのスマートフォン「ギャラクシーS」が日本でも人気を博し、第1ロットとしては完売して1カ月が過ぎた。現在、スマートフォンは急成長の兆しを見せ、携帯各社が参入しつつある。アンドロイドのOSをベースにしたサムスン製の売りは、ディスプレーパネルに有機ELを適用したことで、一段と高画質な画面となり、さらに薄型軽量によりアイフォーンを凌いでいることにある。ドコモから発売されたため、電波環境のカバー力も大きな優位性となっている。しかし、有機ELパネル自体の生産が需要に追いついていないため、日本では供給不足の状況になっている。現在は増産対応のため生産工場の増設段階にある。そして今後は、透明化や曲面対応も可能な特徴を最大限に活かして、自動車用ディスプレーとしての期待も高まっており、車室内の新たな情報認識パラダイム変革としてのビジネスモデルが描けるようになってきた。

 2020年までのサムスングループの成長5事業については既に公知されたように、自動車用リチウムイオン電池、太陽電池、LED、そしてバイオ医薬および医療機器関連のヘルスケア事業とされている。この分野に20年まで2兆円規模の投資をかけていく予定になっているが、新分野での事業規模は4兆円程度という目標を掲げたものである。

 リチウムイオン電池は現在、世界的にブレークし、IT・モバイル用から自動車用、産業用、スマートグリッドのエネルギー貯蔵用にまで事業拡大と新たなビジネスモデルが生まれる状況下にあり、投資家の関心を惹いている対象ともなっている。リチウムイオン電池は、ここ数年、ノーベル化学賞にもノミネートされている模様である。実際にこの科学技術が受賞対象となった場合には、ホンダ時代から現在まで長いお付き合いをさせていただいていて、時には書籍の共同監修でご協力いただいている旭化成のフェロー、吉野博士が受賞される可能性が極めて高いという噂がある。

 自動車用電池事業は、独ボッシュとの合弁でSBリモーティブ社を08年に設立したが、IT用途としての民生用リチウムイオン電池では世界トップシェアにまで躍進したサムスンSDIとのシナジー効果により、競争力の高い自動車用電池の実現が可能と考えており、自動車各社の評価を得るに値すると考える。

 太陽電池は日本、ドイツ、米国、中国の各社が事業化を図ってきたが、韓国勢はそれに対して遅れをとってきた。というのも日本での太陽光発電のこれまでの発展は、家庭用太陽光発電事業がきっかけとなったのだが、これは三洋電機の元社長の桑野氏(ホンダ時代から懇意にさせていただいていて、ホンダと三洋電機間の電池開発と調達のきっかけをお互いに創った)らが、政府との補助金支援政策交渉をされた努力が実って成長し続けてきた。

 一方、韓国では戸建住宅の比率が40%以下と日本(60%以上)に比べて少ないため、ビジネスモデルの構築が不可能だったことが大きな要因である。但し、現在は世界の発電事業において大きなソリューションのひとつとなってきたことで、違う世界のビジネスモデルが見えてきたために成長事業のひとつとして組み込んでいる。

 LEDも今や低消費電力と高輝度を武器に、液晶テレビのバックライトとして、さらには照明事業での成長拡大が期待されている。液晶パネルと同様に、価格下落の波も押し寄せ、しかも新規参入企業も増えていることから、今後は差別化技術と低コスト化での市場競争力が問われる分野でもあるが、11年の世界トップシェアを目標に事業推進されている。

 ヘルスケア分野で言えば、新興国を中心に世界人口の増大が起こる中、医療や介護は重要なビジネスモデルと位置づけられ、この分野への新規参入も多くなってきた。サムスングループにはサムスン医療院もあるため、ヘルスケア事業は密接なつながりがある。さらに、ディスプレー分野に強い特質から病気診断の画像解析なども得意なこともあり、強みを活かしたビジネスモデルを提示できるものと考える。

 ともかく、人類と社会に貢献することを目標とする企業体として持続的に発展し続けるには、今後の社会と世界がどういう方向に進んでいくかをタイムリーに、グローバルに分析し実現展開していくことが必要だ。


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