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2011/05/13

<オピニオン>ハリー金の韓国産業ウォッチ⑯サムスンとLG、3Dテレビ競争の行方は                                                  ディスプレイバンク日本事務所 金 桂煥 代表

  • ディスプレイバンク日本事務所 金 桂煥 代表

    キム・ゲファン(英語名ハリー・キム) 1967年ソウル生まれ。94年漢陽大学卒業後、マーケティング系企業に入社。2004年来日し、エレクトロニクス産業のアナリストとして活動。09年からディスプレイバンク日本事務所代表。

◆ライバル競争が革新を加速化◆

 LGが今年1月にFPR(フィルムパターン偏光眼鏡)方式の3D(3次元)テレビを発売、サムスンのSG(シャッターグラス)方式より優れていると強調している。LGとサムスンは、言わば泥沼の戦いをしているように見える。最高経営者も相手側の3Dテレビの弱点を問題視するネガティブキャンペーンを展開し、両社の感情的対立も深化しているという。

 立体映像の3Dテレビは昨年のワールドカップを契機に、約460万台販売された。だが、まだ初期市場であり、技術的完成度や視聴の便宜性を改善することは市場拡大のための必須課題だ。代表的な問題点には、映像重複(クロストーク)、ちらつき(フリッカー)による目の疲労感や目まい、解像度が落ちて視野角が狭くなる点が挙げられる。このような問題を解決するアイディアと技術がメーカーごとに展開されている。

 LGのFPR方式はグラスの代わりにフィルムを利用したため、軽くてデザインも優秀という長所がある。従来の偏光パターン方式をより改善したもので、映像重複やちらつきもなくて視聴しやすいという。半面、サムスンのSG方式は解像度の高さと優れた画質を最大の長所とするが、重さや価格に負担がかかる眼鏡を弱点とする。

 LGは、サムスンと同じSG方式を採用している自社テレビの新製品発売も取りやめた。LGの技術を卑下する表現がサムスンの海外テレビ広告で出たことで、サムスンとの本格的な技術・品質競争が必要と判断したためだ。両社の3Dテレビ対決は、世界3大テレビ市場の中国、米国、欧州ですでに本格化している。昨年、世界のLCD(液晶ディスプレー)テレビ市場でサムスンは1位(18%)、LGは2位(12%)のシェアを記録した。LCDパネル供給量の半分を占めている韓国電子事業が、テレビでも世界市場の30%を占めたのである。LCDパネル産業との連係とともに、日本のライバル企業を技術、デザイン、価格で着々と抜いた成果といえる。

 一方、東日本大震災による部材需給問題は、一部テレビメーカーの供給能力を低下させる恐れがある。したがって、今年のテレビ市場はメーカーの計画通りの成長とならないが、前年比5%成長の255百万台になる見込みだ。LCDテレビは215百万台へ同15%成長し、このうちLED(発光ダイオード)バックライトを採用したLEDテレビは1億台を突破すると予想される。

 今年2500万台(全体テレビ市場の約10%)の3Dテレビは2014年に112百万台(同約38%)規模となり、今後テレビ市場の主力商品になると展望されている。

 3Dテレビで主導権を握れば、1位と2位の格差拡大または瞬間逆転も起こり得る。両社は3Dテレビの具現方式について全く違う技術を選択している。選択した技術が市場で生き残るには、持続的な技術革新が必要だ。競争という環境は、この革新を加速させるだろう。

 ただし、競争を通じた革新ではなく、感情的対決に執着すれば企業や製品のイメージ悪化、価格下落につながる。両社はもちろん、韓国産業にも望ましくないことを忘れてはならないだろう。ソニーや東芝など日本のグローバルテレビメーカーが常に反撃の機会を狙っていることも、念頭に置かなければならない。

 最近のウォン価値上昇は、輸出中心の電子産業を実績下落に導く恐れがある。ひとまず原油及び原材料の価格上昇にブレーキがかかっているが、世界経済の根本的回復による市況安定はまだ期待できない。このような外部的不安定を超え、韓国企業が成長を続けるためには、技術開発と市場開拓、経営の革新を繰り返すのみだ。サムスンとLGも革新を伴って競争してこそ、ともに成長を持続できるだろう。

 LG電子の今年1~3月実績がテレビをはじめとする家電部門の好調を土台にし、3四半期ぶりに黒字転換した。LG電子は昨年10月の具本俊副会長の就任以降「製造業本来の姿勢」を強調し、「Fast,Strong & Smart」を新しいスローガンに掲げてきた。事業部中心の完結型体制、未来への徹底した準備、経営革新の加速化を通じた事業競争力の強化などの実践が、実績改善に結びついた。今年第2四半期以降には、サムスン電子のテレビ部門の収益改善が期待できるという。両社の健闘を常に期待する。


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