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2012/03/02

<オピニオン>自動車用高性能電池に関する展望                                                                 サムスンSDI 佐藤 登 常務

  • サムスンSDI 佐藤 登 常務

    さとう・のぼる 1953年秋田県生まれ。78年横浜国立大学大学院修士課程修了後、本田技研工業入社。88年東京大学工学博士。97年名古屋大学非常勤講師兼任。99年から4年連続「世界人名事典」に掲載。本田技術研究所チーフエンジニアを経て04年9月よりサムスンSDI常務就任。05年度東京農工大学客員教授併任。10年度より秋田県教育視学監併任。11年度名古屋大学客員教授併任。著者HP:http://members.jcom.home.ne.jp/drsato/(第1回から80回までの記事掲載中)

◆競争力が生き残りの条件◆

 本年2月上旬、米国フロリダにて自動車用先進電池の国際会議(AABC)が開催された。第12回となる本国際会議は参加者の増加とともに活発な議論が交わされる一方、中にはあまり内容がないプレゼンで参加者を睡眠へと誘うケースもある。

 総じて欧米のプレゼンにこのような類があるが、そのような中で日韓のプレゼンの質が高いというのは、開会当初からの傾向である。

 今後の市場と技術がどのように動くのかという予測に対し、投資戦略や技術戦略などがリンクされているが、電池、特にリチウムイオン電池に対する需要と市場規模は拡大の一途を辿ることに相違はない。

 この国際会議の主要な参加意義は3つに分類される。各企業や研究機関からの発表を行うこと、あるいは聴講することで全体的な動向を把握し自社の戦略に反映すること、そしてイニシアチブをどれだけ握れるかというビジネスパワーにつなげることである。

 2つ目は、展示会も兼ねていることで直接的なビジネスを発掘する場として活用できることであり、年々展示会を行う企業が増えている。

 そして3つ目は、ここに集う人々との交流を通じたネットワークの発掘と構築、そこから得る生きた情報の交換および収集である。特に3つ目の意義は常連になればなるほど有効となり質も向上する。実際、ここでの出会いからビジネスにつながっているケースが少なくない。

 著者自身、ホンダでの業務を通じてこの国際会議に招待された2001年の第1回から関わっているが、カリフォルニア州政府大気資源局との交流、電池メーカーとのアライアンス、素材メーカーとの共同研究、ビジネスモデル戦略構築など多くの仕組みを作り上げてきた。

 サムスンに異動してからも、この構築してきたネットワークを維持継続するとともに、更に新たなネットワークの構築につなげている。05年のサムスンSDIからの発表に始まり、ここ数年は展示会場にSBリモーティブとして出展し広くPRしている。

 自動車メーカーとの交流協議、素材メーカーとのビジネスアライアンス、国際標準化に関する意見交換など、そのスタイルはいろいろな形で展開されている。自ら主体的に行動することで具体的なビジネスへの波及効果は大きく、なんらかのイニシアチブを握ることがビジネスの拡大を意味する。

 環境法規動向に関しても監視することと発言することで、不都合な法規を発効されるより実効的有効的な提案につなげることに価値がある。国際標準に関して言えば欧米諸国に比べて日韓の主張は相対的に弱い分、さまざまなネットワークを活用することで力を増幅することが必要である。

 特に電気自動車の充電システムから電池の形状からサイズに至るまでホットな対象となっているが、日本が欧米や中国との議論において苦戦を強いられているのも事実である。先行している商品や技術を有している国が国際標準を勝ち取れるという保証は、今や全くない。逆に既存商品や先行技術の変更を強いられることもあり得る。

 一方、この国際会議においては当初、化学電池分野と併行して物理電池であるキャパシタも大きなセッションのひとつとして議論されてきた。しかし、ここ5、6年前からはリチウムイオン電池の進化と更なる期待によりキャパシタの話題性は激減した。

 日本のパワーシステムズ(オムロン48%と三井物産45%の出資)は自動車用や産業機器用へのキャパシタ事業展開を目指してきたが、当初の事業目標にはほど遠く、つい最近撤退を余儀なくされた。開発当初はリチウムイオン電池より出力特性が高く耐久性も高いという特徴を前面に打ち出す形で数十億円の投資を図ってきたが、リチウムイオン電池の最近の性能向上、安全性信頼性の向上、コスト低減の可能性と共に分が悪くなったことが要因である。

 電池かキャパシタかの議論は在籍していたホンダでも激しく繰り広げられていたが、首尾一貫して電池の可能性を説いてきた著者は、少なくとも自動車用電源としてのキャパシタには大きな疑問を抱いていた。

 サムスンに異動した後にも、CTOや他の役員からキャパシタ研究開発への着手に関する相談を受けたが、着手には反対し、むしろリチウムイオン電池への集中と競争力の拡大を唱えてきた。

 今、この領域ではどこの電池メーカーが競争力を出せるかが重要な課題であり、それこそが生き残りのシナリオ条件となっている。


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