ここから本文です

2013/05/24

<オピニオン>転換期の韓国経済 第40回                                                       日本総合研究所 向山 英彦 上席主任研究員

  • 日本総合研究所 向山 英彦 上席主任研究員

    むこうやま・ひでひこ 1957年、東京生まれ。中央大学法学研究科博士後期課程中退、ニューヨーク大学修士。証券系経済研究所などを経て、2001年より(株)日本総合研究所勤務、現在調査部上席主任研究員。中央大学経済学部兼任講師。主な著書に「東アジア経済統合への途」など。

  • 転換期の韓国経済 第40回

◆厳しい環境の韓国自動車産業◆

 現代自動車グループは国内市場では輸入車の攻勢に直面する一方、米国では販売が伸び悩むなど厳しい環境に置かれている。輸入車の市場規模は着実に拡大して2011年に初めて10万台に乗った。12年は韓国車の国内販売台数が前年比▲2・4%となったのに対して、輸入車(中心は欧州車)の販売台数は24・6%増となり、国内自動車販売台数に占めるシェアは8・5%となった。

 自動車に対する個別消費税引き下げ措置が12年末で終了したため、同年秋以降増勢が強まった自動車販売台数が13年入り後再び伸び悩み、1~4月は0・4%増(前年同期比、以下同じ)となった。こうしたなかで、輸入車販売台数は20・9%増と安定的に伸び、全体に占めるシェアは9・8%へ上昇した。

 近年、欧州車のシェアが上昇している要因に、①韓国とEUのFTA発効後、大型車に対する関税率が引き下げられたこと(8%から5・6%へ)、②欧州の景気が悪化したため、欧州車メーカーが高級車ニーズのある韓国市場での販売に力を入れたこと、③20~30歳代の若年富裕層(医者、弁護士などの専門職)を中心に、欧州車に対する人気が上昇したことなどがある。

 輸入車の攻勢を受けて、現代自動車グループは値引きや「輸入車キラー」の投入を迫られている。これまで、同グループは圧倒的なシェアに支えられた価格支配力によって大きな利益を確保し、それを研究開発や海外事業展開、広告宣伝などに振り向けてきたとすれば、輸入車のプレゼンスの拡大はそれを難しくさせることになる。

 他方、米国市場では円安の影響を受け始めた。11年10月に100円=1500ウォン台で推移していたウォン・円レートは12月に1200ウォン台、13年1月に1100ウォン台、5月には1000ウォン台へ上昇した。

 13年に入り米国での販売が伸び悩み始めたことに加え(図)、ウォン高によって現代自動車では1~3月期の営業利益が前年同期比▲10・7%、起亜自の営業利益は▲35・1%となった。ちなみに、現代自動車グループの米国でのシェアは1、2月の7%台から3月8・1%、4月8・6%へ上昇したが、12年通年のシェア(8・7%)を下回っている。

 現代自動車は海外生産を進めているものの、国内生産比率が日本企業と比較して高いのが特徴である。米国では12年、現地生産現地販売(エラントラ、ソナタ)が30万9000台、韓国から輸出されたのが35万1000台となっている。このため、米国での販売は為替レート変動の影響を受けやすくなっている。

 ちなみに、中国とインドでは基本的に現地で販売される車は現地で生産している。4月の中国での販売は前年同月比2桁増と、堅調を維持している。

 現代自動車グループがこれまで国内生産を重視してきた理由には、①FTA(自由貿易協定)によって近い将来関税が撤廃されること、②ウォン安のメリットを利用できること、③各国・地域で販売台数の少ない車種を国内で集中生産するメリットがあること、④工場周辺に集積する部品企業に支えられた効率的な生産ができること、などが考えられる。

 韓国の工場が輸出生産拠点として機能し続けていくにはコスト競争力の強化が欠かせないが、①急激な円安・ウォン高、②賃金の上昇圧力(「経済民主化」の一環として非正規労働者の処遇改善を求める動きが広がる可能性)、③電力料金の値上げなど、経営を取り巻く環境が厳しくなり始めた。

 さらに、蔚山工場で長年行われてきた徹夜勤務体制を見直して、13年3月4日より昼夜連続2交代制が実施されるようになった。

 ウォン高が進めば海外生産比率を引き上げるという選択肢もあるが、そうすれば国内の雇用環境を悪化させ、財閥に対する風当たりを強くしかねないというジレンマに陥る。この点を考えると、国内の生産性を引き上げていくことが当面の課題となろう。円安・ウォン高を生産性を向上させる契機として活用する発想が必要である。厳しい環境のなかでどう対応するのか、現代自動車グループの真価が問われることになる。


バックナンバー

<オピニオン>