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2013/02/08

<オピニオン>韓国企業と日本企業 第1回 日本企業はアジア企業から学べるか                                                      多摩大学経営情報学部 金 美徳 教授

  • 多摩大学経営情報学部 金 美徳 教授

    キム・ミドク 多摩大学経営情報学部および大学院経営情報学研究科教授。1962年兵庫県生まれ。早稲田大学院国際経営学修士・国際関係学博士課程修了。三井物産戦略研究所、三井グループ韓国グローバル経営戦略研究委員会委員などを経て現職。

◆韓国の強みを再生や革新のヒントに◆

 ハーバード大学のエズラ・ヴォーゲル名誉教授が1979年に出版した『ジャパン・アズ・ナンバーワン』が当時70万部を超えるベストセラーとなり、一世風靡したことはご承知の通りだ。この著書の特徴は、戦後の日本経済の高度経済成長の要因を分析し、日本的経営を高く評価したことだ。単に日本人の特性を美化するにとどまらず、何を学ぶべきで、何を学ぶべきでないかを明確に示唆した。この著書に啓発された米国企業は、日本企業からしっかりと学び、80年代に衰退していた米国経済を見事に復活させた。米国は、45年から52年の7年間日本を占領し、ある意味先進国が途上国に政治・経済システムを教えたはずであったのが、その立場を逆転させてまで日本的経営から学ぶに至るには相当な屈辱感と大きな葛藤があったに違いない。しかし、そこは大人になって謙虚に学び、米国の懐の深さを見せた。

 今、日本経済は、構造改革の遅れにより未だ「失われた20年」から抜け出せずにおり、そこに追い打ちをかけた東日本大震災による約20兆円とも言われる経済的損失により、衰退の一途を辿っている。日本企業はというと経営改革の遅れから中小零細企業420万社のうち7割の300万社が赤字経営に陥っており、大手企業も相次いで5000人から1万人規模のリストラを断行している。また、安倍首相の所信表明演説では、「危機」という言葉を14回繰り返しており、経済再生が最大かつ喫緊の課題であると強調している。一方、国際社会も日本経済や日本企業に対して悲観的な見方をしている。例えば世界の主要シンクタンクが、日本の1人当たりGDPが将来的に韓国に抜かれると予想している。英国エコノミストは韓国の1人当たりGDPが2030年に日本を抜き50年には日本の2倍になる、経団連・21世紀政策研究所は50年に日本は韓国(世界14位)に抜かれて世界18位になる、米国シティーバンクは50年に韓国が日本を抜いて世界4位になると予測している。また、マレーシアのマハティール元首相は、「日本経済の過ちから教訓を得て、韓国経済により多くを学ぶべきだ」 (朝日新聞13年1月15日付)と述べている。さらに、米国ワシントンポスト(12年10月28日付)は、日本衰退論の特集を組んでおり、「衰退する日本はかつての希望に満ちたチャンピオンの座に戻れない」という刺激的な見出しとなっている。

 この日本衰退論の根拠としては、日本の人口が1億2700万人から100年には4700万人に激減することや、50年の平均年齢が52歳と高齢人口が圧倒的に多くなることで、10年に世界3位に転落した日本経済の衰退スピードが加速するなどとしている。また、この特集記事にはエズラ・ヴォーゲル名誉教授「毎年首相が変わるような政治的混迷によってデフレに陥ったことで、若者が未来に希望を持てなくなってしまった」や、朝日新聞の船橋洋一元主筆「日本人はもうナンバーワンになるのを諦めてしまった。中国に敵うわけはないと思うようになり、トライしようとしない」のコメントも掲載されていた。

 安倍政権の経済危機対策の一つに「アジア経済圏を取り込む」というのがある。アジア経済は、巨大な市場規模や豊富な天然資源など潜在性が高いことから、世界経済を牽引することは間違いない。アジア開発銀行(ADB)のシナリオによると、アジアGDPが世界に占める割合は、10年の27%から50年には52%になると予測されている。早ければ30年代にも50%を超えるとの見方もある。10年アジアGDP17兆㌦が、50年にはアジアGDPが174兆㌦に膨らむと試算している。とりわけ世界GDPに占める割合は中国が20%、インドが16%となり、米国の12%を上回るというのが特徴である。英国のトップシンクタンクの国際戦略研究所(IISS)も「戦略概観」において同じような予想をしており、「アジアの世紀」が到来する根拠として、アジア域内の中間層が過去20年で3倍以上に増えたことを指摘している。アジアは、このような域内経済連携が拡大するだけでなく、欧米諸国のアジアシフトにより域外経済連携も強まる。まさしく「アジア経済=世界経済の時代」となる。

 今後、日本は政府も企業もアジアのヒト・モノ・カネ・情報の取り込みに躍起になるだろうし、もはや韓国企業や中国企業などアジア企業から学ばざるを得なくなるであろう。
 果たして80年代に米国企業が日本企業から学んだように、10年代に日本企業はアジア企業からしっかりと学ぶことができるだろうか。これは、決して簡単なことでない。なぜならアジア企業でさえ、欧米企業からは学べるがアジア企業から素直に学べないからだ。アジア企業から何が学べるのだろうか。経営理論やビジネススキルと言われてもなかなか腑に落ちない。そこで考えられるのは、「アジアの知恵」、「地政学的戦略」、「新興国ビジネスモデル」である。このような視点であれば、アジア企業から少しは学ぶ気になるのではなかろうか。

 この連載『韓国企業と日本企業』では、「アジアの知恵」、「地政学的戦略」、「新興国ビジネスモデル」に強みをもつ韓国企業の考察を通じて、日本経済の再生や日本企業の革新のためのヒントを探っていきたい。


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