ここから本文です

2013/05/17

<オピニオン>韓国企業と日本企業 第4回 なぜ日本企業はアジア新興国で稼げないのか                                                    多摩大学経営情報学部 金 美徳 教授

  • 多摩大学経営情報学部 金 美徳 教授

    キム・ミドク 多摩大学経営情報学部および大学院経営情報学研究科教授。1962年兵庫県生まれ。早稲田大学院国際経営学修士・国際関係学博士課程修了。三井物産戦略研究所、三井グループ韓国グローバル経営戦略研究委員会委員などを経て現職。

◆過去の成功体験に安住は禁物◆

 アジアの経済発展を牽引しているのは、韓国企業、中国企業、台湾企業、香港企業、シンガポール企業、インド企業などアジア企業である。とりわけ韓国企業は、家電・携帯電話・半導体・自動車などの分野でアジア市場のみならず、世界市場を席巻している。

 韓国企業の業績は、日本企業を上回り始めている。サムスン電子は、2012年度売上高が前年比21・9%増の17兆7600億円、純利益が前年比73・3%増の2兆1146億円に上り、過去最高を記録した。また、世界薄型テレビ市場(12年)では、韓国メーカー(サムスン電子とLGエレクトロニクスの2社)がシェア42・7%を占め、日本メーカー(パナソニック、ソニー、シャープの3社)の19・2%を大きく上回った。世界携帯電話・スマートフォン市場(12年)では、サムスン電子がシェア25・1%を占め、2位フィンランドのノキア(20%)や3位米国のアップル(11・3%)を大きく引き離した。シャープ(0・5%)とパナソニック(0・2%)は、シェアを落とす一方である。

 一方、日本企業の業績はというとパナソニックは11年度と12年度2年連続8000億円の赤字、ソニーは12年3月期まで4期連続の赤字で累計赤字額は9193億円に上る。また、シャープはこれまでに貯めに貯めてきた利益1兆2000億円を食いつぶした上に、サムスン電子から13年3月に約104億円(議決権3・08%、第5位株主)の出資を受け、辛うじて経営破綻を免れている現状だ。さらに、大手半導体メーカー(世界3位DRAMメーカー)のエルピーダメモリに至っては、12年2月に経営破綻(更生法申請、負債総額4500億円)した。パナソニック、ソニー、シャープ、エルピーダメモリの業績不振の理由は、韓国企業に負けたと言っても過言でない。

 なぜ日本企業は、世界最高の技術やものづくり文化を持っていながら稼げないのか、また韓国企業に負けてしまうのであろうか。その理由について考えて見る。

 1つは、韓国企業の躍進を過小評価していることだ。過大評価をする必要はないが、過小評価するというのもシビアさに欠ける。日本の企業や経済の利益を最優先に考えていれば、韓国企業が好きとか嫌いとかという呑気なことは言っていられないはずだ。また、韓国企業を過小評価するということは、他のアジア企業も過小評価する可能性が高い。アジアの企業や消費者を過小評価や軽視して、支持や信頼を得られるはずもない。

 2つ目は、過去の成功体験に安住して怠慢があったのではなかろうか。「韓国企業が勝ったのでなく、日本企業に怠慢があった」「韓国企業は誰よりも成功したのでなく、誰よりも失敗した企業」という見方もできる。韓国企業は、誰よりも失敗したからこそ常にのたうち回りながら指先分の一歩でも前に進もうとしているのである。

 3つ目は、日本がアジア新興国市場の台頭など世界潮流を見極められなかったことだ。日本企業は、BRICs(ブラジル・ロシア・インド・中国)などアジア新興国市場の台頭を疑心暗鬼の目で様子を伺うような傾向があった。BRICsという用語・概念は、米国ゴールドマン・サックスのエコノミストであるジム・オニール(現在同社会長)氏が01年11月に作成・発表した投資家向けレポート『Building Better Global Economic BRICs』を通じて生み出されて、世界に広まった。BRICsが発表された当初は、日本の金融業界では話題になったが、日本の商社や製造業界は「ただの金融商品を売るための造語」「これらの国の経済発展はまだまだ」だと言って振り向こうとしなかった。しかし韓国企業はというと何の迷いもなく逸早く乗り出した。この意思決定の速さが、BRICs市場での明暗を分けた。

 4つ目は、日本の技術神話を妄信して殿様商売に甘んじていたことだ。日本のモノづくりは、世界が認める世界最高の技術であるが、技術力が高いからと言って必ず売れるという経営法則はない。すなわち技術力と販売力は、必ずしも比例しないのである。この点を錯覚している日本企業やビジネスパーソンが少なくない。そのため技術に過剰に依存して、売る努力を疎かにした。例えば売る努力もせずに、売れない原因をアジア新興国の消費者に責任転嫁している。責任転嫁の理由は、高い技術水準について来られない現地消費者の低いレベルに問題があるというのだ。この現地消費者は、文化や所得水準が上がってくれば、放っておいても買うようになる。それまでは、マイナーチェンジの製品を売っとけば良いという考え方である。

 5つ目は、内需依存から抜け出せなかったことだ。日本経済は、戦後、常に内需か外需かという議論を繰り返し、結論が出せないまま、何とか内需で食べていけた。しかし安倍政権は、成長戦略「海外展開・オープン」で、外需で食べて行く方向に大きく舵を切った。ものづくりだけでなく、食文化、医療システム、教育制度、交通・エネルギーインフラなどの分野で海外市場に打って出る。その突破口しての経済外交が、ロシアと中東(サウジアラビア、アラブ首長国連邦、トルコ)である。13年4月に安倍首相が訪ロし、日ロ共同声明を採択した。経済協力の特徴は、都市インフラ整備・エネルギー、医療・先端技術、農業・食品の3分野を軸に協力を図ることと、ロシア極東シベリアを共同で開発することだ。

 6つ目は、日本にはアジア新興国市場で稼げるグローバル人材が少ないことだ。この詳細は、次回に持ち越すこととする。


バックナンバー

<オピニオン>