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2014/01/10

<オピニオン>韓国企業と日本企業 第12回 ソチ五輪でLGと日韓企業連携図れるか                                                    多摩大学経営情報学部 金 美徳 教授

  • 多摩大学経営情報学部 金 美徳 教授

    キム・ミドク 多摩大学経営情報学部および大学院経営情報学研究科教授。1962年兵庫県生まれ。早稲田大学院国際経営学修士・国際関係学博士課程修了。三井物産戦略研究所、三井グループ韓国グローバル経営戦略研究委員会委員などを経て現職。

◆新興国ビジネスモデル構築のチャンスに◆

 LGのロシア戦略を前回に続き、さらに詳細に分析する。LGは、1990年代の初期資本主義段階からロシアで、地を這いつくばるが如く地域に密着したアプローチや文化的なアプローチにより現地消費者の心を掴んで来た。5つの具体的事例を挙げる。

 1つ目は、世界一国土面積が広いロシアでLGブランドを効果的に宣伝するため、拠点都市を定めて多彩な文化イベントを開催し、ブランド・イメージと市場競争力を高めた。例えばロシアの中西部にあるエカテリンブルク市(ウラル連邦管区スヴェルドロフスク州、人口130万人)では、「LGフェスティバル」、特にLGのカラオケを使った「のど自慢大会」や「ミスLG選抜大会」などが現地住民から大変な好評を得た。「のど自慢大会」は、お酒と歌を好むロシア人の嗜好に見事に合致し、LGのカラオケ機器が市場シェアほぼ100%となり、独占した。この手法をネーミングするならば「カラオケ中心のオーディオ・マーケティング」と言える。

 また、「ミスLG選抜大会」では、世界的に定評があるロシア女性の美貌を誇示し、イベントの終盤にはエカテリンブルク市と孤児院にLG製品を寄贈したほか、抽選会では参加した市民に数多くの景品をプレゼントした。このイベントは、州知事や市長などをはじめ約10万人に上る市民が参加し、市レベルでの祝祭にまで発展した。

 2つ目は、「奨学クイズ番組」のスポンサーとなり、LGブランドの認知度を一挙にロシア全土に広めた。2000年に始まった高校生対象の「奨学クイズ番組」は、ロシアの全国放送である「TV6」チャンネルで初放送されて以来、1年目にして30%を超える高視聴率を上げるロシアを代表する教養番組である。ロシア教育庁が主宰し、モスクワ国際関係大学(以下、略称MGIMO・ムギモ国立大学)の教授が問題を出題する。優勝者には、ムギモ国立大学の入学資格や海外留学の機会が与えられる。この番組に逸早く目を付け、スポンサーとなったLGは、LGロゴや司会者のLGブランドに関するコメントを見事なまでに演出する番組に作り上げて行った。因みにこの番組のロシア語出題委員長をプーチン大統領令夫人のリュドミラ・プーチナ氏が受け持っていたことから、これが一層の話題を呼んだ。

 3つ目は、LGが主宰したクッキング・スクール(料理学校)が人気を博した。電子レンジの顧客を対象に、この機器を使った無料の料理教室を開き、製品がいかに優秀であるかを体験させ、その口コミ効果を狙った。これが期待以上の効果をもたらした。料理教室の会場では、LG製品の展示コーナおよび体験スペースを設け、参加した主婦たちが電子レンジだけでなく、冷蔵庫・洗濯機・掃除機・オーディオ機器などにも触れられるようにし、他製品の広報や販促も行った。

 4つ目は、ロシア囲碁協会と共同で「LG囲碁大会」を開催した。「LG囲碁大会」は、韓国企業が中心となってロシアに囲碁を広める初の試みであった。世界的には日本の囲碁の名称である「GO(ゴ)」が使用されているが、ロシアだけはLGの囲碁大会開催などの影響により韓国の名称である「BADUKU(バドゥク)」を標準用語として使うまでになっている。

 5つ目は、ロシア人の趣向を徹底して洗い出し、そのニーズにきめ細かく対応した製品を開発している。例えばドラム式洗濯機は、当初は製品の奥行きが長すぎるというクレームがあった。なぜならロシアの家屋の大半が古く、トイレと台所が狭いケースが多かったためだ。そこで、奥行きを大幅に狭めた新製品を出すことで、ヒット商品を生み出した。エアコンは、7~8月には35度を記録する猛暑となる一方、真冬には零下30度を超すロシアの特殊な気候を勘案し、オールシーズン対応の冷・暖房兼用の製品を開発・販売した。1年のうち半分以上が冬であるため冷房機能に対する需要が高くないことからロシアのエアコン市場規模は、15万台程度にとどまっていた。しかし、このようなジンクスを崩し、ロシア家庭の大半がLGエアコンを使用するほどの大ヒット商品となった。これは、エスキモーに冷蔵庫を売ったようなものと評されている。その他にも、電子レンジはロシア人が好む料理に適応した調理機能を大幅に補強、携帯電話は毎月新製品を発表するなど製品開発に一切の妥協を許さないというのが開発姿勢である。

 この5つの事例の根底で共通していることは、何よりも他の企業がやらないこと、もしくはできないことをやる。さらに他の企業が行かない場所に出向いてイベントを行うということだ。

 LGは、このように地を這いつくばり、のたうちまわるような努力の結果、エアコン、掃除機、オーディオ、電子レンジの4つの製品が、ロシア国民が選ぶ「国民ブランド」となった。また、ロシア家電市場シェアの30%を占めており、このうち9つの家電製品がトップシェアとなった。さらに、ロシア全域に「LGブランドショップ」250店舗を出店するまでに至っている。

 しかしLGは、これに満足することなく、すべての製品でトップシェアを目標としており、覚悟を新たにしている。そのためロシアの人々を感嘆させる未来型デジタル製品と技術を発表し、ロシアの人々の生涯の友として添い遂げる未来戦略も併せ持っている。

 当面は、2014年2月7日に開幕するソチ冬季五輪で、LGの底力を嫌というほど見せつられるであろう。

 日本企業は、ソチ冬季五輪やロシア市場でLGと何らかの企業連携を図れないものだろうか。これは、日本企業にとって新たな新興国ビジネスモデルの構築を図る絶好のチャンスである。


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