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2014/04/18

<オピニオン>転換期の韓国経済 第51回                                                       日本総合研究所 向山 英彦 上席主任研究員

  • 日本総合研究所 向山 英彦 上席主任研究員

    むこうやま・ひでひこ 1957年、東京生まれ。中央大学法学研究科博士後期課程中退、ニューヨーク大学修士。証券系経済研究所などを経て、2001年より(株)日本総合研究所勤務、現在調査部上席主任研究員。中央大学経済学部兼任講師。主な著書に「東アジア経済統合への途」など。

  • 転換期の韓国経済 第51回

◆注目したい今後の設備投資の動き◆

 韓国の2013年の実質GDP成長率が速報値より上方修正されて3・0%となった(12年も2・0%から2・3%へ)。民間消費2・0%増、建設投資6・7%増、設備投資1・5%減、輸出4・3%増、輸入1・6%増であった。

 設備投資が2年連続で低迷したことには(12年は0・1%増)、内外需の減速に加えて、企業が朴槿惠政権の政策を見極めようとして、投資に慎重になった影響もある。

 韓国銀行は4月10日、今年の成長率見通しを1月発表の3・8%から4・0%へ上方修正した(国民所得統計の全面的見直しによる)。

 今後の経済動向をみていくうえで、以下の点に注意が必要である。

 第1は、民間消費の増勢が強まるかどうかである。足元をみると、新車販売効果によって、1~3月の自動車販売台数が比較的高水準となった。3月には現代自動車が新型ソナタを発売したため、当面堅調に推移していくことが期待される。民間消費が勢いづくためには、①実質所得の増加、②不動産市況の回復、③家計債務の調整などが必要である。上記の①と②に関しては改善が進むであろうが、債務調整にはしばらく時間を要するであろう。

 第2は、輸出の回復がどの程度まで進むかである。昨年は世界経済の減速と「円安・ウォン高」の影響を受けて、輸出が伸び悩んだ。その一因に、対中輸出(13年の対中輸出依存度は過去最高の26・1%)の伸びが以前よりも低下していることがある。

 中国では構造改革が優先されて今年も7%台の成長となるほか、国産化(輸入代替)の進展もあり、対中輸出は緩やかな伸びとなる公算が大きいため、輸出は先進国向けがどの程度伸びるかにかかってこよう。

 第3は、設備投資が拡大するかどうかである。朴大統領は従来の成長モデルに代わる新たな経済社会の建設をめざしている。

 それを具体化する「経済革新3カ年計画」が2月末に策定された。計画は、①強いファンダメンタルズを構築するための改革、②創造経済の推進、③内需の振興の3本柱で、政府は起業支援の拡充やイノベーションを誘発する環境の整備、成長が期待される5大サービス産業(保健・医療、教育、観光、金融、ソフトウエア)の重点的育成を推進する。

 こうした施策の発表を受けて、設備投資が拡大するかどうかがポイントになる。設備投資の拡大は経済の活性化だけではなく、ウォン高圧力の緩和にもつながるからである(ウォン高圧力が働く背景に経常収支の黒字幅拡大があるが、これは国内の投資率が貯蓄率を大幅に下回っていることによる)。

 しかし、製造業の稼働率が依然として低いこと(図参照)、企業の営業利益率が総じて低下していることを踏まえると、足元で回復してきた設備投資が今後も拡大し続けるかは不確実といえよう。

 第4は、公企業改革が計画通りに進むかどうかである。公企業改革は税財政改革や市場の不公正の是正とならんで、「強いファンダメンタルズを構築するための改革」に含まれるが、「経済革新3カ年計画」とは別に公企業改革計画が策定された。

 政府がここにきて改革を本格化させている背景には「官僚主義」の打破以外に、経済全体に占める公企業のウエートが高く、巨額の債務を抱えていること、近い将来到来する「高齢社会」に備えて、財政の健全化が求められていることなどがある。

 ちなみに、13年4月現在の資産総額基準による大企業30社のなかに、韓国電力公社(2位)、韓国土地住宅公社(3位)、韓国道路公社(11位)、韓国ガス公社(12位)、韓国水資源公社(18位)、韓国鉄道公社(22位)が入っている。

 これまで公企業は信用力の高さをバックに融資を容易に受けられたため、非効率な経営(高い報酬や賃金も問題)を改革する必要性に迫られなかった面もある。

 ファンダメンタルズを改善して、経済をより高い次元に引き上げることができるのかどうか、今後の動きを注視したい。


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