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2016/03/25

<オピニオン>韓国経済講座 第183回                                                        アジア経済文化研究所 笠井 信幸 理事

  • アジア経済文化研究所 笠井 信幸 理事

    かさい・のぶゆき 1948年、神奈川県生まれ。国際開発センター研究員、ソウル大学経済研究所客員教授、秀明大学大学院教授を経てアジア経済文化研究所理事・首席研究員。

  • 韓国経済講座 第183回

◆「少年よ大志を抱け」と言えるか?◆

 「去年運よく大企業に就職できたが、多くの友人がまだ就職できずにいる。こんな状態だから、気兼ねして友人に連絡することもできない」

 韓国の若いネットユーザーの声だ。「韓国統計庁によると、2015年の若年層の雇用率は41・5%、失業率は9・2%となり、過去最高を記録した」というニュースに対する反応で、ほぼこの状況にあきらめた声だ。

 その後16年2月末の失業率が発表され、「2月の青年失業率(15~29歳)は12・5%となり、統計基準が変更された1999年6月以来で最高を記録した」とダメ押し報道がなされた。将来を期待する若者が、本来なら希望にあふれる社会の入り口で、やる気をなくしているのが実態なのだ。そうした若者・青年層の失業者は56万人に達するというのだ。

 韓国統計庁によると、16年2月末の15歳以上の人口は4327万4000人、経済活動人口(学生や定年退職者を除く、有給の労働者及び無給の家事労働に従事する主婦など)は2673万4000人、就業者数2541万8000人、失業者数131万7000人、経済活動参加率は61・8%、失業率4・9%、雇用率58・7%だった。

 そのうち、若年層(20~29歳)を見ると、雇用率57・0%、失業率12・5%となり、過去最高を記録した。雇用統計で青年は15~29才を指し、統計庁が発表する青年層派の失業率は12・5%(表参照)と発表される。

 しかし、事実上10代は大多数が学生であるため、青年層失業の深刻さは20代の問題である。掲げた表で見ても、15~29歳と20~29歳の失業率は12・5%と同じであるものの、15~29歳の失業者数の失業者数に占める20~29歳のそれが93%に達していることからもその深刻さが窺えよう。しかもこうした傾向が継続してきた結果であることがさらに危機感を高めているのである。

 同表の総雇用率は58・7%である。例えばこれが完全雇用を達成したらと仮定すると、15年の実質GDP総額1465兆ウォンが2496兆ウォンに跳ね上がる。つまり経済活動に参加する国民が全員で稼ぎ出すことのできる額である。実際はそのうちの58・7%の水準であったということである。いうまでもなく完全雇用は理論値であり、これは単なる机上の計算値なので直接的な意味はない。しかし、その数値には考えさせられるものがある。つまり潜在成長率の向上に可能性が見られたり、青年層の経済活動参加促進に強い政策的含意も見て取れる。

 また同表には10歳ごとの人口数も少子化の影響から下位年齢層へ向かうごとに少なくなる傾向があり、それが経済活動人口にも表れており、労働構造危機が醸成されている。さらに言えば、来年の17年には15歳未満の若年人口より65歳以上の老齢人口が上回り、労働人口である15~64才の独立人口は減り始めると予測されている。そして60年には老齢人口が若年人口より3倍ほど多くなるとされ、定年退職年齢である60歳以上の人口はすでに11年に若年人口を追い越しているのだ。

 このように、青年層失業率増大の背景には人口構造問題があり、青年層就業問題が単なる景気回復対策で対応できるものではなく、それを含めた少子化対策、高齢化対策、さらには人口対策を見据えたものでなければならず、これに失敗すると国家の在り方にまで及ぶ総合的・重層的課題なのである。


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