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2017/09/01

<オピニオン>曲がり角の韓国経済 第23回 児童手当導入は安定財源の確保と同時に                                                      ニッセイ基礎研究所 金 明中 准主任研究員

  • ニッセイ基礎研究所 金 明中 准主任研究員

    キム・ミョンジュン 1970年仁川生まれ。韓神大学校日本学科卒。慶應義塾大学大学院経済学研究科前期・後期博士課程修了。独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て現在、ニッセイ基礎研究所准主任研究員。

◆制度の持続可能性や国民の信頼高める工夫必要◆

 現在韓国が直面している最大の課題の一つが「少子化」である。韓国政府は少子化の問題を解決するために、2006年から「セロマジプラン」という少子高齢化対策を実施し、10年間にわたり、莫大な予算を投入したものの、06年に1・12であった合計特殊出生率(一人の女性が一生に産む子供の平均数、以下、出生率)は16年に1・17であまり改善されていない。同期間における日本の出生率が1・32から1・44に改善されたことと比べると、韓国の出生率の改善度の低さが分かる。

 韓国の国会立法調査処は、14年8月22日に、今後、出生率が13年の出生率1・19のままなら、14年時点で5075万人(将来人口推計)である韓国の人口は、56年に4000万人になり、2100年には2000万人へと半減すると予想した。また、2136年には1000万人まで人口が減り、2256年には100万人に人口が急減し、少子化が改善されない場合、韓国は2750年には消滅すると予測している。16年の出生率が1・17であることを考慮すると、人口減少のスピードは上記の予測よりさらに速くなる可能性が高い。

 文在寅政権(以下、韓国政府)は低い出生率を改善するために、8月に親の所得と関係なく18年7月から0~5歳児を対象に月10万㌆の児童手当を支払うという計画を発表した。児童手当の導入は文在寅大統領の選挙公約の一つであり、基本所得を普遍的福祉に基づいて保障し、育児に対する経済的負担を減らすことが主な目的である。韓国政府は、18年7月から支給する児童手当の金額を政策効果や財政状況などを見ながら、将来的に段階的に引き上げることも同時に検討している。

 現在、韓国には児童手当制度は導入されていないものの、育児に対する親の負担を緩和することと子育てに対する選択肢を多様化する目的で、保育料や養育手当などが支給されている。13年3月からは既存の制度を改正し、満5歳未満の子どもを保育園に通わせる場合には子どもの年齢や家庭状況により、最大月64・5万㌆の保育料が支給される。また、満3歳~満5歳の子どもを幼稚園に通わせる場合には6万㌆~22万㌆の補助金が幼児学費として支給されている。さらに、満5歳未満の子どもを保育園や幼稚園などの児童保育施設に通わせず、家で子育てをする親に対しては養育手当として毎月10万㌆~20万㌆(満1歳未満20万㌆、満1歳以上~満2歳未満15万㌆、満2歳以上~満5歳未満10万㌆)を支援している。18年7月から児童手当が導入されると、例えば、満1歳未満の子どもを家で育てる親に対しては児童手当10万㌆と養育手当20万㌆、合計で月30万㌆の手当が支給されるので、子育て世帯の経済的負担は今より緩和されることになるだろう。しかしながら、問題は財源をどこから確保するかである。児童手当を実施するためには、22年までの5年間で合計13・4兆㌆の予算が必要であると推計されている。韓国政府は、今後児童手当の導入だけではなく、高齢者に対する基礎年金の金額も引き上げる(18年4月から月25万㌆に、21年からは月30万㌆に)など、社会保障関連政策を拡大することを計画しており、関連予算は大きく増加することが予想されている。

 韓国政府は、特別な財源の確保なしで、財政支出の構造を変え、児童手当や基礎年金などの予算を確保することを計画しているものの、今後更なる少子高齢化は「保健・福祉・労働」分野の関連予算を大きく増加させるに違いない。安定的な財源を確保するための早急な対策が必要な時期である。

 日本では72年から5歳未満の第3子以降を対象に児童手当制度を導入していたが、その後、支給対象を徐々に拡大し、06年からは小学校6学年を修了する前の子どもまでに、10年6月以降は中学生までに支給対象を拡大した。導入初期には一律月3000円が支給されていた支給額も、現在は、3歳未満や3歳から小学校修了前の第3子以降の子どもには1万5000円が、3歳から小学校修了前の第1子と第2子、そして中学生の子どもには1万円が支給されている。また、子ども手当の所得制限世帯に対しては特例として子ども一人当たり月5000円を支給している。導入から45年を迎えている日本の児童手当の特徴としては、上記で説明した通り、子どもの年齢や出生順に応じて受け取れる手当の金額が異なることと特例が適用されているものの所得制限があることが挙げられる。さらに、


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