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2017/06/16

<オピニオン>韓国企業と日本企業 第53回 ビジネス教養のための韓半島問題⑩                                                    多摩大学アクティブラーニング支援センター長 金 美徳 教授

  • 多摩大学アクティブラーニング支援センター長 金 美徳 教授

    キム・ミトク 多摩大学経営情報学部および同大学院ビジネススクール (MBA)教授。1962年兵庫県生まれ。早稲田大学院国際経営学修士・国際関係学博士課程修了。三井物産戦略研究所を経て現職。

◆止まるところを知らない北ミサイル発射◆

 北朝鮮のミサイル発射は、国連をはじめとする世界各国が、いくら経済制裁など圧力を加えようが、対話の機会を与えようが、止まるところを知らない。2016年はミサイル24発を発射し、17年は1月~5月の5カ月間だけで12発も発射した。これにより金正恩政権が誕生した11年12月30日(亡父の後任として朝鮮人民軍最高司令官に就任)以来、5年5カ月間でミサイル53発を発射したこととなる。因みに祖父の金日成体制では46年間(1948年9月9日~94年7月8日)でミサイル15発、父の金正日体制では18年間(93年4月9日~11年12月17日)でミサイル33発を発射しており、これらと比較すると異常に多いと言える。最早、「結果が出ない対話は、意味がない」「対話のための対話は、行わない」との意見も出ており、対話という選択がかすみ始めている。もしも武力衝突が起きたとすれば、それが米国による北朝鮮の核施設を対象にした局部攻撃であったとしても韓国人100万人以上、日本人50万人以上、米国人10万人が犠牲になるとのウォー・シミュレーションがある。これも北朝鮮の攻撃能力が上がれば上がるほど、その被害がさらに大きくなるというものである。

 このような深刻な北朝鮮情勢について世界の専門家は、どのように見ているのかを考察する。17年6月に開催されたアジア版ダボス会議である「第12回平和と繁栄のための済州フォーラム-アジアの未来ビジョンの共有(78セッションに81カ国から延べ5000人参加)」に出席し、多くの研究者・外交官・政治家・経営者などから直接、最前線の生の情報や示唆に富んだ意見を拝聴した。これらの最新情報を基に分析する。

 例えば北朝鮮に対して軍事行動に踏み切る基準となるレッドラインは、米国、ロシア、中国など国によって大きく違うということが明確になった。米国は、トランプ大統領がシリアの空軍基地にミサイル攻撃した例(4月7日59発・発射)を引き合いに出し、「適切な時には断固たる行動をとる」と強調しており、北朝鮮に核・ミサイル開発を放棄させるため「最大限の圧力」をかけるとして軍事力行使も辞さない構えを示している。具体的なレッドラインは、「第6回目の核実験と米国本土に届くICBM(大陸間弾道弾)発射実験に成功したら攻撃する」というのが、一般的な見方である。しかしながらICBMの発射実験に成功しても攻撃しない場合が想定される。その時は、米国がレッドラインを妥協して、SLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)の発射実験成功時に変更することも考えられる。

 ロシアは、レッドラインの基準以前に、レッドラインそのものがあるかどうかが疑問である。ロシアの研究者によるとプーチン大統領は、外交政策の優先順位をウクライナ・クリミア問題、シリア問題、旧ソ連国問題、NATO(北大西洋条約機構)問題の順としている。NATOとは、北大西洋条約に基づき米国を中心とした北米および欧州諸国によって結成された軍事同盟(29カ国)である。最近、モスクワで開催された外交に関する国際会議では、北朝鮮問題に触れられることは触れられたが、関心事にはならなかったとのことである。また、5月14日に開催された中ロ首脳会談では、両首脳が北朝鮮情勢の緊迫化に懸念しつつも「対話によって解決する」という方針で合意した。これは、北京で開幕した広域経済圏構想「一帯一路」をテーマとする国際会議に合わせて、習近平主席とプーチン大統領が会談したものである。さらに、ロシアは、経済制裁どころか、経済連携を強化している。今年1~3月のロ朝貿易額は、前年同期比85%増加している。特に北朝鮮への輸出は、同133%増の3141㌦でその大半はエネルギーである。すなわちロシアの北朝鮮へのエネルギー輸出が、


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