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2018/11/16

<オピニオン>転換期の韓国経済 第105回                                                       日本総合研究所 向山 英彦 上席主任研究員

  • 日本総合研究所 向山 英彦 上席主任研究員

    むこうやま・ひでひこ 1957年、東京生まれ。中央大学法学研究科博士後期課程中退、ニューヨーク大学修士。証券系経済研究所などを経て、2001年より(株)日本総合研究所勤務、現在調査部上席主任研究員。中央大学経済学部兼任講師。主な著書に「東アジア経済統合への途」など。

  • 転換期の韓国経済 第105回

◆不安を感じる文政権◆

 文在寅政権は岐路に立たされている。経済政策の成果が表れない一方、朝鮮半島情勢をめぐり対米関係がきしみ始めた上、徴用工裁判を契機に対日関係が悪化している。文在寅政権の経済政策は所得主導型成長、公正な経済、革新成長の3つの柱から成るが、重点は所得主導型成長に置かれた。政権発足後、所得主導型成長に関連した政策を推進してきたが、その成果は乏しく、むしろ雇用環境の悪化(最低賃金大幅引き上げの副作用)や投資の減速など、景気悪化の兆候がみられる。2018年、19年ともに、韓国の実質GDP成長率は2%台(17年は3・1%)にとどまる見込みである。

 経済界やシンクタンクなどから、政策の見直しを求める意見が出されたが、文在寅政権は引き続き所得主導型成長をめざした政策を推進していく姿勢を崩していない。文在寅政権がそうした姿勢をとり続けるのには、以下の理由があると考えられる。

 第1は、二期続いた保守政権下で実施された政策が所得・雇用環境の改善に十分につながらなかったため、成長戦略のパラダイムを転換しなければならないという強い意思(政治理念)があることである。最低賃金の引き上げや基礎年金の増額などが、所得の脆弱な層によって支持されていること、これまで国民から比較的高い支持率を受けてきたことも影響していよう。第2は、上述した点と関連するが、所得主導型成長が政権の看板政策であることである。

 第3は、この戦略の理論的枠組みを作った洪長杓、張夏成などの学者が大統領を支えるスタッフとして働いたことである。

 所得主導型成長の設計者とみられる洪長杓は今年6月まで経済首席秘書官を務めた後、9月に、大統領直属の政策企画委員会に設置された所得主導成長特別委員会の委員長になり、所得主導型成長の実現に向けた政策の具体化作業に従事している。

 経済首席秘書官の交代後、大統領府で所得主導型成長を広報する役割を担ったのが張夏成政策室長である。このため、所得主導型成長に対する批判は同時に政策室長への批判になった。同政策室長が、韓国経済の現状を危機と規定する見方を根拠がないと強く否定したことが、逆に反発を招いた。

 今年に入り、張夏成政策室長と金東兗・企画財政部長官、経済副首相との間で、見解の相違がしばしばみられた。金副首相は経済界の生の声を聴く機会が多いため、最低賃金の引き上げペースを抑え、革新成長により力を入れる必要があるなど、「現実的な」提案をしたと推測される。

 両者の不協和音が大きくなるなかで、11月9日、文在寅大統領は、政策室長と経済副首相をともに交代させる人事案を発表した。しかし、今回の交代が経済政策の変更につながる可能性は低いと思われる。

 大統領就任後、文在寅大統領が高い支持率を得てきたのは主に外交面での成果による。最近でも、9月の南北首脳会談後に、北朝鮮の非核化への期待が高まり、支持率が著しく上昇した。しかし、その時期を除くと、総じて低下傾向にあることに注意したい(上図)。政策の成果が今後も表れなければ、


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