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2018/08/10

<オピニオン>韓国企業と日本企業 第66回 米朝首脳会談と激変する韓半島・北東アジア②                                                    多摩大学アクティブラーニング支援センター長 金 美徳 教授

  • 多摩大学アクティブラーニング支援センター長 金 美徳 教授

    キム・ミトク 多摩大学経営情報学部および大学院ビジネススクール (MBA)教授。1962年兵庫県生まれ。早稲田大学院国際経営学修士・国際関係学博士課程修了。三井物産戦略研究所を経て現職。

◆「圧力・制裁」一辺倒から「対話と包括的解決」へ◆

 2018年6月12日に実現した史上初の米朝首脳会談について分析・評価し、今後の韓半島、さらには北東アジアの行方を考える。史上初の米朝首脳会談の実現に至る過程では、関係国間においてそれぞれの思惑や外交戦略に基づく綱引きが熾烈を極め、水面下でしたたかな交渉が繰り広げられた。米朝首脳会談の直前に行われた米朝交渉、G7サミット、上海協力機構サミットの分析を通じて、米朝首脳会談を取り巻く国際政治を考察する。

 米朝首脳会談は、5月26日トランプ大統領によって中止の通告がなされた。それも北朝鮮が外国メディアの取材を入れて核実験場(豊渓里)を爆破した直後のことであった。主な中止の理由は、米朝高官によるつばぜり合いである。マイク・ペンス副大統領は、「金正恩がトランプ大統領を手玉に取れると考えているなら大きな間違いだ」、「もし金正恩が核兵器を放棄しないならリビアの最高指導者カダフィ大佐と同じ運命をたどるだろう」と警告した(FOXニュース)。カダフィ大佐は、03年に核開発を放棄したが、米英仏などの支援を受けた反体制勢力によって11年政権が崩壊し、殺害された。これに対して崔善姫外務次官は、ペンス副大統領に対して「無知でばかげている」、「政治家としてダミー(まぬけ)」と罵倒した(朝鮮中央通信)。もし米朝がこのまま瀬戸際外交に立ち戻ることになったならば、戦争という選択肢が現実味を帯びる可能性が極限に近づいていたであろう。しかしながら米朝首脳会談は、再交渉が行われ、改めて開催することが決まり、実現に至った。

 第44回G7サミットは、18年6月8日~9日にカナダ・ケベック州で開催された。合意文書(コミュニケ)では、「ルールに基づく国際秩序の推進」に合意し、「自由・公平で相互利益になる貿易と投資は、成長と雇用創出の主要原動力」であることを確認した。また、「関税障壁、非関税障壁の削減に向けて努力する」と宣言した。さらに、ロシアに「不安定化行動を停止」し、「民主主義を損なおうとする」行為をやめるよう求めた。シリアのアサド政権支援も中止するよう呼びかけた。G7出席者は、米国のトランプ大統領、フランスのマクロン大統領、英国のメイ首相、ドイツのメルケル首相、日本の安倍首相、イタリアのコンテ首相、カナダのトルドー首相、EUのトゥスク欧州理事会議長及びユンカー欧州委員会委員長の9名であった。しかし、トランプ大統領は、合意文書の承認を撤回したため、G7に深い亀裂が入る格好となった。これによりG7の団結と協調は、表面的なものになったといっても過言でない。トランプ大統領が撤回した理由は、G7メンバー全員から米国の輸入関税導入、すなわち保護貿易主義を反対されたためである。トランプ大統領は、関税導入の理由として国家安全保障を挙げており、「すごい軍隊を持つにはすごい賃借対照表が必要だ」と述べている。G7に亀裂が入ったのには、もう一つの隠れた理由がある。それは、トランプ大統領が、金正恩委員長とシンガポールで会うという理由から6月9日G7サミット閉会の前に退席したからである。また、トランプ大統領が、同盟国のリーダーたちと個別に会談をしなかったこともあり、誤解が誤解を、不信が不信を生んだとも言えよう。トランプ大統領に対して、「G7、すなわち主要国家の結束よりも、北朝鮮、すなわち独裁主義を優先した」、「独裁者である金正恩委員長に擦り寄り、民主国家の絆を蝕んだ」という批判が飛び交ったほどである。

 第18回上海協力機構サミットは、


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