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2019/03/15

<オピニオン>転換期の韓国経済 第109回                                                       日本総合研究所 向山 英彦 上席主任研究員

  • 日本総合研究所 向山 英彦 上席主任研究員

    むこうやま・ひでひこ 1957年、東京生まれ。中央大学法学研究科博士後期課程中退、ニューヨーク大学修士。証券系経済研究所などを経て、2001年より(株)日本総合研究所勤務、現在調査部上席主任研究員。中央大学経済学部兼任講師。主な著書に「東アジア経済統合への途」など。

  • 転換期の韓国経済 第109回

◆原則主義の先にある財政悪化リスク◆

 文在寅政権の経済政策をみると、所得主導成長の実現をめざして、迷路に入り込み、そこから脱出できない感がする。

 まったくプラスの効果がなかったわけではない。効果としては、民間消費の伸びがやや加速したことがある。韓国では2000年代以降、総じて民間消費の伸びが経済成長率を下回ってきたが、所得主導成長に関連した政策が本格化した18年は2・8%と、経済成長率の2・7%をやや上回った。

 半面、以下に指摘する副作用をもたらした。

 第1は、就業者の増加ペースの鈍化である。18年から最低賃金が大幅に引き上げられたことにより、中小・零細企業や自営業者の間で従業員削減の動きが広がった。この結果、同年の就業者数の増加幅は9万7000人にとどまった(17年は31万人強)。

 卸・小売、宿泊・飲食、教育、製造業などでは減少した。大企業の多い地域の飲食店のなかには、18年7月より大企業に適用された週52時間労働制の影響(夜食の減少)も受け、閉店するところが増加した。

 第2は、公共部門での不正採用である。公共部門を中心に、雇用の増加と非正規職から正規職への転換が進められたが、その過程でさまざまな不正が生じたと報告されている。上級職の子息や親戚の場合、筆記試験が低い点数であったにもかかわらず、面接試験で高得点が与えられて合格したケース、契約職(採用試験なし)として採用された後、正規職に転換したケースなどである。

 第3は、所得格差の拡大である。最低賃金大幅引き上げの影響で、前述したように従業員削減の動きが生じた。臨時職や日雇い職として働いていた人達が主な対象になったため、所得格差が拡大している。

 世帯(除く単身世帯)平均名目可処分所得の伸びをみると、下位20%では18年に入り前年比マイナスになった(上図)。その結果、上位20%の下位20%に対する比率は17年10~12月期の5・5倍から18年同期に7・4倍へ上昇した。

 結論として、所得主導成長をめざした政策はこれまでのところ、その効果は乏しく、むしろ副作用を生み出したといえる。

 内外の研究機関からは最低賃金の伸びを抑え、


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