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2002/08/02

<随筆>◇日韓ランチタイム比較◇ 産経新聞 黒田勝弘ソウル支局長

 先日、日本に一時帰国したおり、東京のビジネス街である虎ノ門にでかけることがあった。ちょうどランチタイムで、虎ノ門から新橋にかけての通りはたくさんのサラリーマン、OLたちでにぎわっていた。

 昼飯を食べようと、あちこちまわってみた。久ぶりに日本のサラリーマンやOLたちの昼食を、体験してみようというわけだ。このあたりは、ランチタイムとなるといろんなお店が店先に「本日のメニュー」として見本を陳列し客寄せにしている。

 これをみながら歩きまわったのだが、その値段の安さに驚いた。7百-8百円あたりが一番多く、5百円以下もかなりあってますます驚いた。牛丼などはなんと280円である。しかもメニューが和洋韓中なんでもありの多様さである。

 そこでぼくは、ぜひ5百円以下を食べようと、新橋近くのさるソバ屋に入った。「本日のメニュー」として「ざるソバ+鶏唐揚げ丼/450円」と出ていたからだ。食してみると、大きな鶏の唐揚げが3個のった丼飯とざるソバ1枚で、実においしく、かつおなか一杯となった。そしてランチタイムのコーヒーがこれがまた安い。立ち飲みでもないのに170円など3百円以下のメニューが多かった。

 以下は韓国の話になる。先日、「中央日報」が日本経済についての連載特集で「日本は物価が高い」は昔話だとレポートしていたが、その通りである。ランチタイムなど、今やソウルより東京の方が安い。ぼくはランチタイムの多くを、公務員やビジネスマンの多いソウル中心部の光化門周辺ですごすが、体験的にもそういえる。

 日本円で5百円つまり5千ウオン以下のメニューなどソルロンタンの汁物ぐらいでほとんどない。コーヒーも座って飲めば3百円以上だ。回転寿司など1皿220円もするのに結構はやっている。新橋の駅前で見た回転寿司は、豊富なネタに緑茶まで出て150円均一だったのに。

 ぼくは週末だけ自炊するので、週に1回は近所のスーパーに出掛ける。その経験で言えば食料品つまり原材料はまだ日本よりは安い。それが製品となって店に出てくるとたんに高くなる。原材料と製品の価格差が大きすぎるのだ。これはなぜか。

 当初は「人件費や家賃の高さが製品価格にはねかえっているのだろう」と思っていたが最近、その真相(!)が分かった。実は店が手にする利益幅が大きいのだ。つまり短期に投資を回収しようと、いいかえれば早くもうけようと品物の値段をえらく高くしているのだ。だからうまくあたると大もうけするし、あたらないとすぐ店をたたむ。そこでは消費者を考えて価格をできるだけ抑え、長期的に利益を図るという経営努力は必要ない。だから韓国の食べ物屋は実に簡単に値を上げる。それも大幅に。
                 (本紙 2002年6月14日号掲載)


  くろだ・かつひろ  1941年大阪生まれ。京都大学経済学部卒。共同通信外信部を経て、現在、産経新聞ソウル支局長。