ここから本文です

2002/06/07

<随筆>◇ソルトレーク五輪雑感◇ 韓国ヤクルト 田口亮一 共同代表副社長代行

 21世紀最初の五輪が幕を閉じた。夏季五輪に比べて規模・競技種目・華やかさなどで数段興味薄になるのは否めないが日本のテレビ番組はNHK-BSしか見る事が出来ない我々にとっては好むと好まざるに関わらず毎日これでもかと目に入ってくる各種の競技風景の中から感じた代表的なことを少し軽い気持ちでご紹介しましょう。

 まずはショートトラックで先に日本の寺尾選手が準決勝で、又韓国の金東星選手は決勝でしかも先頭でゴールインしながら両者とも妨害と審判判定で失格となった件です。たまたま私はこの両競技とも生中継で見ていましたが寺尾選手が前の3人が転倒し決勝に進めると両手を挙げて喜んだのもつかの間、失格になり落胆する表情、そしてもっと酷いのは金選手が金メダルを取ったと大喜びで大極旗を掴みウィニングランを始めようとした瞬間の判定で失格と知り大極旗を放り出し、しかしハッと気付いてすぐ拾い上げ口惜しそうに口を尖らす表情、今もまざまざと目に浮かびます。

 この判定も含めて五輪17日間の会期中、フィギュアの不正採点を始めとしてスノーボードの採点不服・ドーピング違反など様々なトラブルが噴出しましたが、その批判・評価は既に色々なメディアで専門家の意見が取り上げられているのでそちらにおまかせするとして、私が言いたいのはアメリカのような自由で合理的な精神に富み他人を慮る精神旺盛な国の人々でもこのような誤ち(ショートトラックの件に関しては素人目にも誤審判と云うことが分かるしNHKのプロの解説者もどこが妨害か分からないと断言し、もう一つ云えばロシアのプーチン大統領迄韓国の金選手の勝利と名指しで抗議した)を犯すと云うより誤ちを犯さざるを得ない状況になってしまう所を見ると人間及び人間の本性と云うものは大差ないんだナァ、今までアメリカ人(西洋人)の生き方を尊敬してきたのに損したナァと云う感じを持ったことでした。

 金メダルを取ったアメリカのオーノ選手は日系人らしいが、学生ならば学校でクラスメートに、社会人なら会社での同僚に、加えて恋人が居れば恋人に各々「オイお前ッ小賢しいよ、あれはないよ」と云われてショゲかえっているのではないかと心配しています。

 さて次は日本人選手と日本のメディアの問題です。メダル獲得数のことなど阿呆らしいから書きませんが、皆さんこの五輪の始まる前のスポーツ新聞とか週刊誌をもう一度ご覧になって下さい(そんなのいつまでも後生大事に残していないってか、ごもっとも)。大体出場選手全員がメダル圏に入れます。そして結果がこれだから開いた口が塞がらないのです。

 私はあえていいますが、五輪出場は夏季冬季に関係なくその競技や種目は精選されるべきです。これは私の独断かと思っていたら「居た居たッ」滋賀の平野さんと云う学校の先生「五輪に見えた日本人の未熟」(サンケイ新聞投書欄)、写真家の加納典明氏「楽しむなよ」(週間新潮2月28日号)でちゃんとおっしゃっています。

 持ち上げるメディアもそれに乗る協会・選手も良くない。スポーツ選手だけじゃありません。我々現代に生きる人間はまず「己を知る」と云う所から始めなきゃいけません。蟹だって自分の甲羅に合わせて穴を掘るらしいじゃありませんか。
                   (本紙2002年3月8日号掲載)


  たぐち・りょういち 1943年満州国生まれ。東京都立大学人文科学部卒。69年ヤクルト入社、71年韓国ヤクルト出向。94年から同社共同代表副社長代行。