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2003/02/14

<随筆>◇"村おこし"あれこれ◇ 産経新聞 黒田 勝弘ソウル支局長

 韓国も近年、地方が「村おこし」の一環としていろんなイベントをやったり、観光資源の開発などに力を入れたりしている。先年、南部の慶尚南道・統営市(旧忠武市)に呼ばれて観光諮問委員みたいなことをしたことがある。その時、統営市に日本統治時代に出来た海底トンネルがあって、これを何とか観光資源に使えないかという話があった。

 市当局によると東洋で最初にできた海底トンネルとかで、現場の看板にもそう書いてあった。たしか1930年代にできたものだったと記憶するが、あんなところに、「東洋で最初の海底トンネル」とは、不思議な感慨をおぼえた。海底トンネルは夏は涼しいので、夏場のイベントに使いたいといっていた。

 この年末年始に知ったのだが、忠清南道の西海岸の最西端(泰安?)に「日没の名所」があって、大みそかの夕刻、その年の最後の日没を見物する観光客でにぎわっていた。

 日没の名所があれば当然、「日の出の名所」もある。東海岸の最東端にあたる浦項近くの岬がそれで、こちらも新年の初日の出を見ようと、観光客でにぎわっていた。いずれも地元が観光資源として売り出している。地理的には辺鄙なところだが、韓国もマイカー時代とあって車でお出掛けが多く、けっこう人気を集めている。西と東にあれば、南にも新名所ができている。全羅南道・海南にある韓半島の最南端の「地の果て」村がそうで、こちらも観光名所として売り出し中だ。ぼくはいずれもまだ出掛けてはいないが、韓国におけるこの西・東・南の「果て」を踏んでみるのは話のタネになる。ぼくの今年の旅行課題である。

 「村おこし」のイベントでは、昨年も行きそびれたのがいくつかある。その一つは済州島の「ブリ祭り」である。秋に済州島近海にブリが回遊してくるらしく、10月末に「ブリ祭り」というのがある、船で沖に繰り出し、ブリ釣り大会をやるのだそうな。

 ぼくのようなブリ好きにはこたえられないが、誘われながらまたも逃してしまった。ただ済州島のブリは、季節になると済州市の旧市街にある東門市場に出回る。生け簀のブリを活き造りで刺し身にして食わせてくれる。東門市場は済州島でのぼくのお気に入りの観光コースである。

 冬場の「村おこし」では、前述の東海岸の浦項市でやっている「サンマ祭り」が面白そうだ。魚好きなため、ついこういう話になってしまうのだが、この「サンマ祭り」の「サンマ」は韓国語でいう「コンチ」ではなく、「クァメキ」という、サンマを目ザシ風にに吊るして冬場の潮風で干したもので、浦項や蔚山など東海岸の名物になっている。

 これをそのまま割いてコチュジャンなどを付けて食べる。脂がのっている割りにはさっぱりしていて、酒の肴にいける。サンマの面白い食べ方である。「クァメキ祭り」は年末年始だが、これも行きそびれた。
                 (本紙2003年1月10日号掲載) 


  くろだ・かつひろ 1941年大阪生まれ。京都大学経済学部卒。共同通信記者を経て、現在、産経新聞ソウル支局長。