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2004/07/30

<随筆>◇愛煙家のウウル(憂鬱)◇ 韓国ヤクルト共同代表副社長代行 田口 亮一 氏

 今年のソウルのチャンマ(梅雨)は例年と違って日本型というかジメシト型というか、従来のドバーッと降ってパタッと止むいわゆる激情韓国型ではなかったようです。

 7月に入って太陽が顔を出した日は一日もありませんでした。家内も洗濯物は溜まるし家の中は湿気充満でジメジメするしでブツブツ文句を云っていますが、私もちょっと困ることがあったのです。何でしょう? 実はタンベ・煙草のことです。

 私はさほど愛煙家という程のこともないのですが、それでも一日に一箱(20本入り)位は吸います。さて私には昔から変なくせがあって、煙草の新しい箱を開ける時、その上紙を皆破いてワイシャツのポケットに入れ一本一本取り易くするのですが、これがこの時期すぐ湿ってしまって、いざ吸う段になると煙草そのものがフニャフニャになり、美味しくて体に良い煙(?)が吸えなくなるのです。

 「じゃあ箱の上紙を全部破らなければ良いじゃないか」と言われればその通りなんですけどね。ということで今日は煙草の話になりますが、最近本当に喫煙者としての身のおき所が無くなって困っています。 

 もう一つ困るのがゴルフ場です。最近ソウル近郊のゴルフ場ではクラブハウス全館禁煙が常識になってしまいました。到着してスタート待ちのコーヒーの時間、素晴らしいスコア(いつも100前後)であがって来て入浴後の冷たぁ~い生ビールと料理にのど鼓・舌鼓を打つ至福の時間…、これがゼーンブ「禁煙」になってしまったのです。

 「いいんだよッ人が何と云おうと俺は吸うんだよッ」と云ってもダメなのです。灰皿はありませんしウカウカしてると追放されたり、蹴飛ばされたりもするのです。じゃあ韓国の人はどうしてるか…と言うと、これが驚いたことに私の知人(大体同年代)達はミーンナスパッと禁煙に踏み切ってしまったのです。健康追求と絶倫追求に関する限り日本人は絶対に韓国の人にはかないません。

 しかしいつの頃からでしょうかね、この喫煙嫌煙の害が大きく取り上げられ社会問題にまでなって来たのは。 やはりアメリカの方向から「煙草は体に悪いぜよ」などの医学的データなどが出て、それがマスコミによって煙草→肺癌他諸悪の根源→死亡と言うように醸成されて世界各国に普及したように思われます。しかしちょっと待って下さい。昔はもっと全てに大らかで煙草に関して云えば映画館でも上映中にあちこちで紫煙は上がっていましたし、食堂なんかでも食後の一服なんてまことに良い光景でした。「ベッドで煙草を吸わないで」などの粋な歌もあり…今はベッドどころか応接間でも吸えない状態なんですから。

 「煙草が体に良くない」ということは充分承知の上で私はあえて書かせてもらいますが、皆さん今の世の中いかにもせちがらくなって来ていませんか? あまりにも健康で長生きということに執着しすぎていませんか? 日本国の頭目(オカシラ)がいみじくも「人生いろいろ」と茶化したように、あまり堅苦しく考えないで、もう少し自然体で大らかに生をまっとうしたいものですね(俺、極楽トンボかもしんない)。

 とりあえず愛煙家のウウルは当分の間チャムルスパッケオプスムニダ(我慢するしかありません)。

  たぐち・りょういち  1943年満州国生まれ。東京都立大学人文科学部卒。69年ヤクルト入社、71年韓国ヤクルト出向。94年から同社共同代表副社長代行。