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2004/02/06

<随筆>◇「スモウ」と「シルム」◇ 産経新聞 黒田勝弘 ソウル支局長

 日本の大相撲が韓国に初めてやってくる。14日からソウルと釜山で二日間ずつ行われるが、ソウルで見ているかぎりPRがいま一つで客の入りが心配だ。せっかくの日本を代表する伝統的大衆文化(!)だから韓国の皆さんにはぜひ見てほしいものだ。

 日本のスモウに対する韓国人の関心は昔に比べるとすいぶん高まっている。スポーツニュースなどでもしばしば紹介されるようになった。NHK衛星放送を毎場所、楽しみにしている韓国のファンも多い。日本のスモウが「チングロップタ(気持ち悪い)!」などといわれていた頃とは隔世の感である。

 思い出せば、韓国における「スモウ観」の変化は「貴之花と宮沢りえ」の艶聞がきっかけではなかったか。ヌード写真集を出したころの宮沢りえは韓国でも大人気だったのだが、その彼女のお相手が貴乃花だったため、少し大げさにいえばこれで韓国人のスモウに対する親近感が一気に広がった。

 だから韓国には貴乃花が健在だった時にぜひ来てもらいたかった。今年、横綱はモンゴル系の朝青龍だけなので若干、寂しいが、国際化したスモウを見ていただくという意味では朝青龍も悪くない。米国系だろうがロシア系だろうが韓国系だろうが、実力しだいで堂々と横綱になれるということだから。

 ところで、韓国の相撲である「シルム」と日本の「スモウ」の発音が似ているので、相撲のルーツは韓国ではないかという話がある。韓国人が大好きな「日本文化韓国起源説」だが、真相はわからない。似たような格闘技はモンゴルやロシア、トルコ、スイスなどユーラシア大陸の各地にあるので、この起源説はあまり意味はないだろう。

 ただ語源論としては面白い。そして何よりも、韓国人の皆さんが「スモウの起源はシルムだ」と思うことで、日本の大相撲に関心をもつようになれば、これにこしたことはないだろう。

 さて韓国のシルムだが、先日の旧正月の連休にプロ・シルム大会をテレビでやっていた。正月とか秋夕(中秋節)など名節に合わせてやるあたり、伝統を踏まえている。ところが周知のように力士-選手の姿がまったく非伝統的なのだ。

 マワシにあたる布の「サッパ」を腰とふと股につけるのはいいとして、その下にパンツをはいている。行事-審判も伝統的なかぶりモノを頭にいのせているのはいいのだが、判定の際にレスリングでやる「ピーッ!」とホイッスルのような笛を吹くのだ。このアンバランスが実に不思議である。

 それに最大の問題は選手の頭だ。みんな普通のスポーツ刈りで昔のマゲなどつけていない。これでは「伝統シルム」としての商業的価値は大きく落ちる。しかも最近は黄色・「茶髪」も登場している。これはすごい。「シルムに見る韓国文化論」はぼくの韓国暮らしにおける新しいテーマになりそうだ。


  くろだ・かつひろ  1941年大阪生まれ。京都大学経済学部卒。共同通信記者を経て、現在、産経新聞ソウル支局長。