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2005/04/01

<随筆>◇ソウルの和風居酒屋◇                                                          韓国ヤクルト 田口亮一 共同代表副社長代行

 「今年の冬は暖冬で雪も少ない」と云う長期予報が出たのが昨年の11月頃だったでしょうか、それも日本と韓国の気象庁が口裏を合わせたように同時期に発表したのですが、マリドアンデ(とんでもない)。ソウルは雪こそ少なかったもののかなり寒かったし、江原道・湖南地方は大雪に見舞われました。3月も終わりになってやっと春めいてきましたが、未だ桜はもちろんのこと、ケナリ(レンギョウ)・木蓮などの百花繚乱の見所はもう少し後になるようです。

 こうして毎年セウォル(歳月)の流れをいつもと同じように感じているのですが今年はチトうるさい。以前にもこの欄で「独島はウリタン」という題でこの問題を書いたこともあったのですが、今年はちょっとカムドノップスムニダ(感度が高い)。

 私たち在韓駐在勤務をする者にとっては「いい加減にして欲しい」というのが本音ですが、いつものように軽妙洒脱に処理する訳にも行きません。ここはもう時の流れに身をまかせて事態のなりゆきを見るしかありませんが。ところが日本での韓流ブームは一向に衰えることも無く、「ナーンか日本は負けてるナァー」と思っていたところ、最近ソウルに雨後の筍のごとく出現して来た居酒屋の一軒に行って「日本もダイジョウブかな」と思うようになったので、それをご披露しましょう。

 会社に居るAさんは在韓暦10年を越す立派な日本男児ですが、この人は居酒屋風飲屋探訪のトサ(良く分かりませんが名人と云う意味らしい)で、ソウルは江南・江東、遠くは盆糖・一山の方面まで足を伸ばしているという極め付きの居酒屋兆治ならぬ居酒屋トサなのです。

 3月初め、江南は清潭四つ角の路地にある「風月」という店に案内してもらいました。カスリの上着とモンペ(懐かしいナァ)姿のアガシが5人位、同様に厨房にはイルボヌアジョシの店長を頭に若い青年達が忙しそうに働いており、まァ日本の居酒屋よりもやや高級感があります。

 メニューを見ると、もう私が常日頃「今度日本に帰ったらあれ喰っちゃう、これ喰っちゃう」と思ったもので無い物が無い。刺身はもとより締めさば、鳥の手羽塩焼き、茄子の甘味噌あえ(これ大好物です)そして日本でも喰ったことのない北海道の「石狩鍋」まで、これがゼェーンブ辛し味噌ではない純和風味で出てくるのです。そして極めつけは「チューハイ」です。日本に帰ってもチューハイ一辺倒の私にとっては本当に嬉しいことです。

 さてこれだけなら単なる店の宣伝で面白くもなんともありませんが、私が驚いたのはお客さんがコォーイ(ほとんど)韓国の若者達だということです。場所柄少しハイソな若者達、それもアベックが多くてヤキモキさせられますが、もう私達はそれを羨ましいというよりは温かく見守る心境になっていますから、下を向いてチューハイを飲んでます。
 
 ことほどに日本の居酒屋料理が韓国の若者達に受けているのダ、立派な和流のブームではないか、とちょっと短絡的ではありますが「日本ダイジョウブ」と思った由縁であります。「文化の交流」「食生活の交流」そして「政治経済の交流」と日韓友好40周年にふさわしい春になってほしいと切に願っています。  


  たぐち・りょういち  1943年満州国生まれ。東京都立大学人文科学部卒。69年ヤクルト入社、71年韓国ヤクルト出向。94年から同社共同代表副社長代行。