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2006/12/01

<随筆>◇秋の夕日に照る山もみじ◇ 産経新聞 黒田勝弘 ソウル支局長

 この秋は韓国の山をずいぶん歩いた。雪岳山、五台山、太白山……。北の金剛山まで登ってきた。しかしぼくは山登りに趣味があるわけではない。これまで韓国人から日曜登山にずいぶん誘われたが「山登りの趣味はないので……」と断ってきた。したがって韓国には長く住んでいるが、韓国人が大好きな日曜登山には一度も行ったことはない。

 なのに、こんなに山歩きをしているのは釣りのためなのだ。渓流釣りということになるが、韓国の秋はとくに、「ヨルモゴ」といっているマス系の渓流魚がよく釣れる。この魚の学名は「マンチュリアン・トラウト」といって大陸系だが、韓国の固有種として保護種になっている。

 薄茶色のスマートな魚体に小さな斑点がちらばっていて、目のきれいな美形である。大きいのは60-70㌢にもなるというが、普通は20-30㌢が多い。ぼくはこの秋、四〇㌢級を初ゲットした。次は50㌢級が目標になっている。

 渓流釣りの山歩きはもっぱら江原道や慶尚北道の山地だが、韓国の碕山と魚鷺には面白いことがある。川が東海岸側に流れる渓谷には前述のヨルモゴはいなくてヤマメを釣り、逆に内陸部の西側に流れる川にはヤマメはおらず、もっぱらヨルモゴ釣りになるということだ。

 ヤマメ(山女魚)は日本でも代表的な渓流魚で、韓国では「サンチョノ(山川魚)」といっている。魚体はヨルモゴより美しいがヨルモゴほど大きくはならない。したがって韓国の秋の渓流釣りは、大型のヨルモゴを求めての山歩きとなる。

 北の金剛山は国際情勢がらみの訪問となったが、あの渓流には魚はいないという。事業担当の「現代」グループの人たちも、現場の北朝鮮の要員たちもそういっていた。美しい岩肌を流れる見事な清流だが、やはり「水清くして魚棲まず」かな。麓での流れもえらく澄んだ水で、魚はいそうになかった。「金剛山のヤマメ」は幻なのかな。

 金剛山は三度目だったが、北の要員たちによると「今年は紅葉の色付きがよくない」といっていた。たしかに色が濁っていて鮮やかさがなかった。これは雪岳山など韓国の山も同じで、今年はどこも鮮やかな紅葉のイメージがない。秋口に高温が続いたせいかな。ソウルの街でも今年は街路樹の落葉がかなり遅かった感じがする。

 それでも十一月下旬になり、街路樹のイチョウの落葉が始まった。黄金色のイチョウの葉が降り注ぐように散る。ソウルの中心街でもランチタイムに頭上から降り注ぎ、朝には歩道が黄色い絨毯になっている。

 常緑樹が少ない韓国の山では、秋が深まると木々は一斉に葉を落とす。穏やかな韓国の自然がもっと穏かな風景になる。山歩きをしていると、韓国は日本よりはるかに季節の変化がはっきりしていることがわかる。今年も冬がやってきた。(前回の本欄で紹介した関川夏央氏の講演会の話で、引用された本は荒山徹著『故郷忘じたく候』でした。)


  くろだ・かつひろ 1941年大阪生まれ。京都大学経済学部卒。共同通信記者を経て、現在、産経新聞ソウル支局長。