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2007/04/20

<随筆>◇小さいのはイヤ◇ 韓国双日 大西 憲一 理事

 かなり昔の話だが、大宇自動車自慢の軽自動車「テイコ」に関する小話が流行したことがあった。一つ、信号で止まっていたテイコが大きく振動したがなーんでか?それはね、運転者のポケベルが鳴ったから(当時、携帯電話普及前でポケベルが流行っていた)。

 二つ、テイコを運転する場合の3つの注意事項はなーんだ?それはね、出発前にタイヤにガムがついていないか確認(動かない)、走行中に窓から手を出さない(浮上する)、80キロ以上の人は絶対乗せない(パンクする)。いずれも軽自動車のテイコを揶揄しての話で、製造者には大変失礼な話だが韓国人の車に対する考え方がよく出ている。

 ソウルへ来て車の渋滞に驚いたが、そのほとんどが中型車以上で、日本では主流の小型車や軽自動車が実に少ない。図体が大きいから渋滞もさらにひどくなる。

 行きつけのカラオケの美人アガシを酔った勢いで口説いてみたが「車、買ってくれるの?」、酔いのせいで柄にもなく太っ腹に。「条件次第ならね。ただし小型車。狭い道でもスイスイだし、燃費も少ないし」。途端に「小型は危ないからイヤ」と半ば軽蔑の眼差しでアガシは席を立って行った。ここでも小さいのは相手にされない。

 小型車を避ける理由は「韓国は交通事故が多い」「小型車は事故に弱い」という二段論法が圧倒的だが、その裏には「他人には負けたくない。車も他人より小さいのはイヤ」という韓国人の深層心理が影響していると小生は見ている。高級輸入車も韓国では高いほどよく売れるという珍現象も同じ心理上にある。

 韓国人の負けず嫌いは半端ではない。マンションの価格急騰は財テク目的もあるが、「他人より大きな家」願望も一因ではなかろうか。この負けず嫌い精神が韓国経済の高度成長の推進力となった。なぜ負けず嫌いなのか?その理由もはっきりしている。子供の頃、日本人は親から「他人に迷惑をかけるな」と教わって育つが、韓国人は「他人に負けるな」と教えられる。外敵を阻む海に囲まれて「組織を大事にする日本」と、隣国から度重なる侵略を受けた不安定な社会で「他人に負けない個を重視する」韓国の違いだろうか。

 それでも小型車はまだ見かけるが、軽自動車となると極端に少ない。テイコの後続車「マテイズ」は実に可愛いデザインで日本なら女性の人気をさらいそうだが、韓国での軽自動車の占有率は4・2%に過ぎない。イタリアが45%、フランスが39%、日本でも28%というのに。

 ソウル郊外でこのほど開かれたソウル・モーターショーでも中大型車、高級車が中心だった。その上に今年は売り物の美人モデルの服装が比較的地味になった。昨今の余りにセクシーなコスチュームで「モーターショー」ならぬ「モデルショー」と化した現実から脱皮を図るための陰謀に違いない。オジサンの楽しみがまた一つなくなった。


  おおにし・けんいち 福井県生まれ。83-87年日商岩井釜山出張所長、94年韓国日商岩井代表理事、2000年7月から新・韓国日商岩井理事。04年4月、韓国双日に社名変更。