ここから本文です

2008/11/21

<随筆>◇大暴落◇ 韓国双日 大西 憲一 理事

 最近、テレビを見るのが怖い。新聞を見るのも怖い。株とウォンが大暴落しているのです。米国のサブプライムローンに端を発した金融危機が世界経済をパニック状態に陥れ、ドルの急落を受けて円は急騰し日本の輸出産業は悲鳴を上げています。韓国もウォン高で大変のはずが、実はウォン安で大変なのです。暴落したドルに対してもウォン安。「そんなアホな」と言いたくなるが、90年代後半のIMF危機以来の暴落なのです。でも、韓国はなーんにも悪いことしてないのになぜ?と当社の経済通に問いかけても、ドルの流動性がなんだかんだと専門用語に頭がついて行かない。

 実は私の薄給は現地通貨のウォン払いで、これまで日本の留守家族には僅かながら送金し、残りを細々とへそくりながら、老後のために株も少し買ってみました。それがいきなり株とウォンのダブル大暴落で、少額とはいえ私の貴重な財産が大きく目減りしたではありませんか。米国民相手の住宅不良債権の余波が遠く韓国まで、しかも私のような弱者を直撃するとは全く想定外でした。この恨みをどこにぶつけたらよいのでしょうか?

 ところで今回の金融危機でダメージを受けた人は実に多い。元々、韓国の方々は投資と賭け事が大好きな国民だとお見受けしますが、特にファンドブームに沸いたここ数年は国民の大多数が何らかのファンドに加入していたようで、当社の同僚女性社員も「私はちょっとだけ…、〇千万ウォン」と軽くのたまっておられた。知り合いのカラオケクラブの女社長さんはファンドで稼いで店をもう1軒開店したと自慢していた。銀行から借金してファンドに注ぎ込んだ個人投資家も少なくない。手持ち資金不足の上に小心者のオジサンは一人、孤独感を味わっていましたが…。

 そこへ今回の金融ショック。同僚社員は青い顔をしている。友人の知合いは20億ウォンの投資が半分になったと聞いた。20億!!「貴方はいくら損しました?」と聞かれて返事が出来なかった。

 金融危機のちょっと前に行きつけのスナックのママさんから電話が入った。

 「3カ月で2倍になるけど投資しない?何もしないで2倍よ」

 美味しい話にはウラがある事ぐらいは私にも分かるので軽く受け流そうとしたが、ママさんは熱心に勧誘する。実はいろいろあってこのママさんにはちょっと弱い。

 「私の友達はすでに半分回収したわ。私も順調に配当を受け取っているの」

 純情無知なオジサンはこの言葉にグラーッと来て、簡単に乗っかってしまった。そしてこの金融危機。案の定、ママさんから緊急電話が来た。

 「クンイリ センギョッソ!(大変なことになった!)」


  おおにし・けんいち 福井県生まれ。83-87年日商岩井釜山出張所長、94年韓国日商岩井代表理事、2000年7月から新・韓国日商岩井理事。04年4月、韓国双日に社名変更。