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2008/09/05

<随筆>◇日韓は「西高東低」◇ 産経新聞 黒田勝弘 ソウル支局長

 日本のお天気予報に「西高東低の気圧配置」という言葉がある。冬のお天気によく出てくるもので、西の方で高く東の方で低い気圧配置のことをいう。冬のことだからこの言葉を聞くようになると、日本列島も寒さが厳しくなる。

 個人的な話で申し訳ないが、日本に招かれて講演やセミナーなどに出席するたびにこの言葉を思い出す。日本における韓国や朝鮮半島に対する関心が、文字通り「西高東低 」という感じなのだ。

 一九七〇年代以来、ぼくはずいぶん日本のあちこちで講演させてもらった。講演だけでなくセミナーやシンポジウムにもしばしば出席した。思い出すとその地域は、北は盛岡から南は鹿児島にいたる。

 ところが、どういうわけか北海道では一度も経験がない。そしてこれまでの経験では圧倒的に西日本だ。もちろん東京が最も多いのだが、それ以外ではほとんどが関西、中国、九州など西日本だ。これはなぜだろう。

 ぼくが招かれる講演やセミナーは当然、韓国や朝鮮半島に関係するものだ。つまり韓国や朝鮮半島に対する関心は、西日本で圧倒的に高いというわけだ。これはおそらく西日本が地理的に朝鮮半島に近いため、歴史的、文化的、経済的、その他、この地域への関心が強いものと思われる。

 いや朝鮮半島というより、中国大陸を含むアジアとの関係が昔から強く、その流れが今も続いているということだろう。歴史的にいえば、九州をはじめ西日本は、日本人のアジア交流、進出の拠点だったといっていい。

 以上のことと関係があるのかどうか、長くソウルにいて気づいたことがある。在韓ビジネスマンの世界でもこの「 西高東低 」がみられる。統計をとったわけではないが、彼らの日本の出身地がやはり西日本中心という感じなのだ。

 企業が西日本の出身者を選んで韓国に派遣しているはずはない。ただ西日本出身者が好んで韓国に赴任していることはあるかも知れない。地域的な親近感や関心の強さが、海外派遣・赴任に際して何らかの影響を与えているのだろうか。

 たとえばソウルにある“同郷会”でみても、わが「薩摩会」や「博多会」をはじめ九州系はすこぶる活発だ。九州出身の人たちは、その両親や祖父母などに朝鮮半島や中国大陸(満州)の経験者が多い。

 ところで先日、北九州市で開かれた“日韓交流イベント”に招かれ講演してきた。演題は「韓国は面白い!」。地元の日韓交流NPOが中心になり、市当局や企業なども加わった市民イベントだった。この夏、門司と釜山の間に新たに日韓フェリーが就航したこともイベント盛り上げになっていた。

 九州は今、韓国人観光客や留学生も多く“韓国ブーム”だ。九州で「 西高東低 」を実感してきた。


  くろだ・かつひろ 1941年大阪生まれ。京都大学経済学部卒。共同通信記者を経て、現在、産経新聞ソウル支局長。