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2009/04/03

<随筆>◇河の流れのように◇ 産経新聞 黒田勝弘 ソウル支局長

 李明博政権の新しい地方開発プロジェクトに「四大河川改修」というのがある。韓国で四大河川というのは、大きな方から洛東江、漢江、錦江、栄山江の四つで、主な流域はそれぞれ慶尚道、京畿道(首都圏)、忠清道、全羅道となっている。

 プロジェクトに対して賛否両論があるようだが、ぼくは賛成だ。釣りを趣味にしているため、これらの河をよく知っているからだ。渓流釣りでは栄山江を除きいずれもその最上流まで出かけている。いずれも自然のままに放置されているところが多く、風景としては実にいい。いたるところ朝夕は山水画の風情である。しかし護岸や浚渫など“管理”をしないため、いたるところゴミ捨て場になっていて、かつ汚染がはなはだしい。最大の問題は土砂の流入、堆積で水深がきわめて浅いことだ。浚渫をしないので浅くなる一方なのだ。水がたまらないから大雨になると一気に氾濫する。汚染と浅い水深で魚もあまりいない。

 それはともかく、四大河川のうち洛東江と漢江の二つの河の源流になっているところがある。慶尚道と江原道の境にある太白山で、ここを分水嶺に南が洛東江、北が漢江につながっている。太白市にはその水源があって、名所になっている。

 太白山脈の渓流釣りのポイントだ。東海岸に流れる川にはヤマメ(韓国では山川魚/サンチョノ)がいて、太白山系では五十川(オシプチョン)がその宝庫になっている。一方、内陸部から南に流れる洛東江の最上流部はヨルモゴ(学名・満州マス、日本名・コクチマス)のポイントで知られる。

 「ヨルモゴ」は大きなものは体長四〇―五〇センチにもなり、時には六〇センチなどというのも釣れる。こんな大物が渓流に潜んでいるので、釣り人にはこたえられない。

 錦江も素晴らしい。上流にあたる忠清北道の沃川(オクチョン)に知水里(チスリ)というところがあるが、山紫水明の実に美しいところで、釣り人にはクリ(日本名・コウライハス)の名所として知られる。

 栄山江は光州に取材で行ったおり、タクシーを飛ばし下流にあたる羅州で短時間、クリとブラックバスを釣ったことがある。それ以外の釣りの経験はないが、先日、テレビをみていたら流域の栄山浦(羅州市)が例のホンオ料理の故郷と分かった。

 エイを腐らせて発酵させた、強烈なアンモニア臭のあれだ。黒山島沖などで獲れたエイを舟で運んできたところで、伝統そのままの店が残っているという。河口の港町の木浦にはホンオ料理の専門店が軒をつらねたストリートがある。ホンオは木浦名物として全国的に知られるが、実は栄山浦が元祖だという。

 ぼくは栄山江水系の釣り情報にはうとい。とくに上流での渓流釣りの話は聞かない。魚種も外来種のブラックバスでは面白くない。地元ではソガリ(日本名・コウライケツギョ)はいるといっていたが。栄山江ではこれからは「花より団子」でいくか。


  くろだ・かつひろ 1941年大阪生まれ。京都大学経済学部卒。共同通信記者を経て、現在、産経新聞ソウル支局長。